董仲舒

董仲舒：前漢の儒学を築いた巨人

董仲舒（紀元前176年頃 - 紀元前104年頃）は、中国前漢時代の傑出した儒学者であり、『春秋』学者として知られています。現在の広東省広川国出身と伝えられ、その生涯は儒学の隆盛と深く関わっています。

儒学の国家体制への導入

董仲舒は、『春秋』の解釈学である公羊学を深く学び、景帝の時代に博士の地位に就きました。その後、武帝の時代に実施された賢良策において、画期的な政策提言を行いました。それは、それまで様々な学派が存在していた中国において、儒学を唯一の国家思想とするというものでした。この提言は武帝によって受け入れられ、儒学は国家の教育体系の中核となりました。これにより、政治の中枢に進むためには儒学の素養が不可欠なものとなり、董仲舒の思想は中国社会に大きな影響を与えたのです。さらに、地方にも太学（大学）の設置を提案し、五経博士が経学を教授する制度の確立にも貢献したと伝えられています。

災異思想と政治的困難

董仲舒は、『春秋』の深い理解に基づき、陰陽五行説を取り入れた独自の災異思想を展開しました。しかし、建元6年（紀元前136年）に起きた災害についての上奏文の草稿が、何者かによって武帝に届けられたことで、彼は死罪の危機に瀕しました。弟子の呂歩舒が、師の文だと知らずに批判したことがきっかけでした。この一件の後、董仲舒は災異に関する言及を避け、政治的な困難に見舞われることになります。公孫弘という同僚からの讒言により左遷された時期もありました。こうした不遇の時代を経験しながらも、彼は清廉潔白な人柄と揺るぎない学問への情熱を貫き通しました。晩年は官職を辞し、学問の探究に専念したと伝えられています。

弟子と影響

董仲舒の弟子は非常に多く、その講義は徹底したものでした。自ら帷を下ろして講義を行い、３年間も庭に出なかったという逸話も残っています。弟子の中には、師の顔を知らない者もいたほどでした。歴史家の司馬遷もまた、董仲舒から教えを受けたと言われています。

著作とその後

董仲舒の著作は多岐に渡り、『董仲舒百二十三篇』、『聞挙』『玉杯』『蕃露』『清明』『竹林』など多くの書物が存在したと伝えられています。特に『董仲舒百二十三篇』は、彼の奏上や教条をまとめた重要な著作と考えられていますが、現在完全な形で残っているわけではありません。『春秋繁露』は、散逸しつつあった董仲舒の著作を後世の人物が編集したものと推測されています。この書物は、董仲舒の思想を知る上で貴重な資料となっています。

逸話と後世への影響

董仲舒には、不思議な客と出会ったという興味深い逸話が残されています。その客は、董仲舒に見破られ、古狸の姿を現したと伝えられています。

董仲舒の思想は、中国の政治と社会に大きな影響を与え、儒学の国家思想化という大きな転換をもたらしました。彼の学問への貢献は、後世の儒学者や思想家に多大なる影響を与え続け、現在まで至っています。彼の生涯は、学問への飽くなき探究心と、複雑な政治情勢の中で揺れ動く人間の姿を私たちに示しています。

主要参考文献

日原利国訳著『春秋繁露』明徳出版社「中国古典新書」、1977年
鄧紅『董仲舒思想の研究』明徳出版社、1995年
* 小林春樹『『漢書』の新研究　その董仲舒像を中心として』汲古書院、2023年

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