学内神社

学内神社（がくないじんじゃ）は、日本の大学や高等専門学校、高等学校などの教育機関の敷地内に設けられた神社を指します。これらの神社は、単なる宗教施設としてではなく、学問の府としての教育機関の鎮守として、あるいは特定の歴史的な出来事や目的のために創建され、その存在意義は多岐にわたります。

学内神社の歴史は古く、戦前に創設されたものの多くは、戦災や第二次世界大戦後の占領期における神道指令の影響を受けて姿を消しました。しかし、一部は今日まで存続しており、また戦後に新たに創建されたものも存在します。その形態も、本格的な社殿を持つものから、祠や神棚といった簡素なものまで様々です。

現存する学内神社

日本各地の様々な教育機関に、今も学内神社は存在しています。それぞれの神社には固有の由来や祭神、そして果たしている役割があります。

國學院大學神殿（東京都渋谷区）
神職養成を担う國學院大學にあり、大学全体の鎮守として位置づけられています。1923年に創建が発起され、関東大震災などを経て1930年に竣工しました。主祭神は天照皇大神で、天神地祇八百萬神も合祀されています。入学式や卒業式に際して入学奉告祭や卒業奉告祭が行われるほか、天皇誕生日には天長祭が執り行われるなど、大学の節目ごとに積極的に祭事が執り行われています。

慶應稲荷大明神（東京都新宿区）
慶應義塾大学信濃町キャンパス（医学部・病院）に1933年に建立されました。大学病院開設後に医学部関係者の不幸が相次ぎ、敷地内の池に潜む神を祀ることで事態が鎮静化したという伝承が由来です。受験生や病院関係者、入院患者など、多くの人が参拝に訪れるといいます。

拓殖招魂社（東京都八王子市）
戦前期に拓殖大学の茗荷谷キャンパスに創建されたものがルーツです。第二次世界大戦後に一度撤去されましたが、扁額が学生によって守られ、後に八王子国際キャンパスに社殿が再建されました。戦没した大学関係者の御霊を祀っており、その性質から護国神社や招魂社としての側面が強い神社です。

豊受大神宮（東京都世田谷区）
東京農業大学にあり、豊受大御神を祀っています。「農」を追究する大学として、創設以来、収穫祭において豊作を祈願・感謝する伝統を受け継いでいます。かつては仮設神殿でしたが、1956年に本格的な社殿が屋上に造営され、現在に至ります。

興亜神社（東京都武蔵野市）
亜細亜大学武蔵野キャンパス内に1943年に創建されました。前身である興亜専門学校から東南アジアに派遣され、戦没した学生の慰霊を目的としており、戦没校友97柱を祀っています。大学祭の時期に例祭が行われるなど、護国や招魂の性質を持っています。

合格神社（千葉県野田市）
東京理科大学野田キャンパス内に祀られています。もともと当地にあった「山神宮」の跡地に建てられた祠がルーツです。神楽坂キャンパスにあった、進級の厳しさから学生が「落第神社」と俗称した教育勅語奉安殿を踏まえ、大学が正式に「合格神社」と命名しました。受験生や学生の合格祈願の場となっています。

日本工業大学天満宮（埼玉県宮代町）
日本工業大学埼玉キャンパスの造成中に、学問の神である菅原道真公を祀る天満宮の石祠が出土したことが創建のきっかけです。大学の守護神として祀られ、例祭や学内行事での神輿渡御など、地域住民も参加する形で受け継がれています。

学院神社（大阪府大阪市）
浪速高等学校・浪速中学校にあり、神社神道を教育の基盤とする学校の象徴です。昭和14年に創建され、戦後の撤去を経て昭和28年に再建されました。天照大御神や豊受大御神、地域の神々を祀る本殿と、学校関係者の御霊を奉安する祖霊殿からなります。毎月の全校生徒による一斉参拝や、座学と実践を組み合わせた神社神道教育が行われています。

この他にも、中央大学の金住稲荷社（東京都八王子市）、福山大学の権現神社（広島県福山市）、武蔵野学院大学の武蔵野神社・武蔵野稲荷神社（埼玉県狭山市）など、様々な由来を持つ学内神社が現存しています。

かつて存在した学内神社

歴史の中で役割を終えたり、別の場所へ移転したりして、現在は教育機関の敷地内に現存しない学内神社も多くあります。

名張学舎神明宮（皇學館大学名張学舎 ※現存せず）
皇學館大学の名張学舎に鎮守として創建されましたが、学舎の伊勢キャンパスへの統合に伴い、2011年に名張市内の神社へ遷座しました。これにより、現在の皇學館大学には学内神社は存在しません。

国士神社（国士舘大学世田谷キャンパス ※現存せず）
1922年に創建され、国士舘の教育理念に影響を与えた先人の御霊を祀っていました。吉田松陰の精神を範とする大学として松陰神社とも関係が深かったものの、1945年の空襲で焼失し、戦後の状況下で再建には至りませんでした。

落第神社（東京理科大学神楽坂キャンパス ※現存せず）
正式な神社ではありませんが、東京物理学校（東京理科大学の前身）の旧1号館屋上にあった教育勅語奉安殿が、進級試験の厳しさから学生の間で「落第神社」と俗称されました。合格を祈願する学生が多く訪れた一方で、多くの落第者を出したことからそう呼ばれたといいます。旧1号館の解体に伴い、現在は存在しません。野田キャンパスの「合格神社」はこの俗称を踏まえて命名されました。

白翁稲荷大明神神社（信州大学松本キャンパス ※現存せず）
江戸時代からの由来を持ち、近代には旧陸軍連隊の隊内神社として祀られていました。戦後、跡地に信州大学医学部が移転し、神社の存続が問題となります。国有地である国立大学構内に神社が存在することの違憲性が問われ、2003年に訴訟が提起されました。2004年に違憲判決が下され、2007年に大学敷地外へ移転しました。これは、政教分離の原則が学内神社の存在に影響を与えた代表的な事例です。

この他にも、実践女子学園中学校・高等学校にあった香雪神社のように、創設者を祀る神社が形を変えて校内の神棚として現在も受け継がれている事例などもあります。

学内神社は、教育機関の設立の精神や歴史、地域の文化との関わりなど、多様な背景を持って存在しています。艦船に祀られる艦内神社や企業に設けられる企業神社のように、特定の組織や共同体の中に置かれる神社として、またキリスト教系の教育機関にチャペルが、仏教系に礼拝堂が設けられるのと同様に、日本独自の文化的な現れの一つと言えるでしょう。

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