孫皓

孫皓（そん こう）：呉の末代皇帝、その生涯と評価

孫皓（そん こう）は、三国時代の呉の第4代にして最後の皇帝です。初代皇帝である孫権の孫にあたり、父は皇太子であったものの廃嫡された孫和です。その生涯は、即位当初の期待から一転、暴政へと向かい、呉を滅亡へと導くものでした。

生涯

皇帝即位まで

赤烏5年（242年）に孫和の長男として生まれた孫皓は、孫権から喜びをもって迎えられ、彭祖という名を与えられました。しかし、第2代皇帝孫亮の時代に、父である孫和が政争に巻き込まれ自殺を命じられるという悲劇に見舞われます。孫皓は、異母弟たちと生母である何氏に育てられました。

孫休の時代である永安元年（258年）には、烏程侯に封じられます。赴任先で、景養という人物から将来の高貴を暗示する人相であると告げられ、内心喜びますが、それを表に出すことはありませんでした。また、この時期に滕芳蘭を妻として娶っています。

永安7年（264年）、孫休が崩御すると、呉は蜀の滅亡や交阯の離反など、厳しい状況に置かれていました。そのような状況下で、万彧らの推薦を受け、孫皓は23歳で皇帝に即位します。即位後、元興と改元し、大赦を行いました。

暴政と呉の滅亡

即位当初、孫皓は人民を哀れみ、貧民救済や官女解放などを行い、明君と称されることもありました。しかし、次第にその本性を現し、粗暴で驕慢、かつ猜疑心の強い暴君へと変貌します。酒と女を好み、側近を重用する一方で、少しでも気に入らないことがあれば残虐な刑罰を科しました。その結果、多くの人々が失望し、濮陽興や張布といったかつての支持者さえも誅殺されることになります。

孫皓は大規模な土木工事を好み、民衆を労役で苦しめました。また、後宮には数千もの女性を侍らせ、意にそぐわない宮女を殺害し、その遺体を宮殿内の川に遺棄したと伝えられています。その残虐な行為は、人々の心を深く傷つけ、呉の国力を衰退させていきました。

天紀4年（280年）、晋による呉への侵攻が開始されます。各地で呉軍は敗北を重ね、孫皓は遂に降伏を決意します。皇太子孫瑾ら21人を率いて晋軍の前に現れ、呉は滅亡しました。

降伏後

降伏後、孫皓は晋の都である洛陽へ送られ、帰命侯に封じられます。太康5年（284年）に洛陽で死去、享年42歳でした。孫皓の死後も、孫氏一族は西晋に仕え続けましたが、その中には西晋末期の動乱で反乱を起こし、殺された者もいました。

呉の滅亡後、呉の民衆は故国を懐かしむ一方で、西晋に憎しみを抱くようになります。当時の俚諺には「宮門柱 且莫朽 呉当複 在三十年後」「中国当敗呉当複」といったものがあり、呉の復興を願う人々の思いが込められていました。

人物

孫皓は、性格が祖父である孫策によく似ていると言われる一方で、容貌が母方の従兄弟である何都に似ていたことから、即位間もなく何都が帝位を簒奪するという噂が流れました。歌や弁論に優れ、書道にも堪能であったと伝えられています。

その一方で、いわゆる「暴君」としての側面が強調されています。群臣に飲酒を強要し、少しでも問題のある言動があれば処罰を加えるなど、恐怖政治を行いました。しかし、降伏に際しては家臣に書簡を送り、呉滅亡の責任を一身に負い、晋に仕官して才能を発揮するように促すなど、彼なりの配慮も見られました。

評価

陳寿の『三国志』では、「度し難い悪人」と酷評され、「孫皓の降伏を許さずに腰と首とを断ち、万民に謝罪すべきであった」とまで書かれています。しかし、西晋の秦秀は、「孫皓の名声は、華夏を驚動させるのに充分だった。孫皓に少しでも動きがあれば、晋人は惶怖を抱いた」と述べており、その存在感の大きさを評価しています。

孫皓は、呉の滅亡という悲劇の主人公として、後世に語り継がれることになりました。その評価は毀誉褒貶入り混じっていますが、彼が三国時代の終焉に大きな影響を与えたことは間違いありません。

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