孫策

孫策：江東の覇者、若き英雄の生涯

孫策（そんさく）は、後漢末期の動乱期に頭角を現した武将です。字は伯符（はくふ）といい、揚州呉郡富春県（現在の浙江省杭州市付近）の出身です。父は同じく武将の孫堅で、孫策は幼い頃から武術に秀でていたと言われています。彼の生涯は、短くも激しいものでした。

雌伏の時代

孫策がまだ幼い頃、父の孫堅は各地の戦に参加しており、孫策は母や弟たちと共に寿春で暮らしていました。10代の頃から江淮一帯で名を知られるようになり、その噂を聞きつけた周瑜が彼を訪ねてきたという逸話が残っています。周瑜は名家の出身で、孫策の才能を認め、彼を自宅に迎え入れ家族同然の付き合いをしました。

しかし、父の孫堅が劉表との戦いで戦死すると、孫策は袁術の配下となります。この時、孫策は父の旧臣たちをまとめ、軍を編成し、袁術の元で頭角を現し始めます。袁術の元での孫策は、丹陽太守の呉景を頼り挙兵しますが、初陣で大敗を喫してしまいます。しかし、すぐに態勢を立て直し、祖郎を破るなどの活躍を見せました。

袁術軍の一角として異彩を放ち始めた孫策でしたが、袁術からはその才覚ゆえに危険視されました。九江太守、廬江太守の約束を反故にされながら、孫策は江東で自立する機会をうかがっていました。その間も、張昭、張紘、秦松、陳端といった知謀の士や、蔣欽、周泰、陳武、凌操といった武勇を誇る猛者を得るなど、着々と人材を集めていました。

劉繇を倒す

袁術と揚州刺史の劉繇は、揚州の支配をめぐって対立していました。孫策は、この状況を利用し、劉繇と対峙している叔父の呉景の援軍として出陣することを袁術に申し出ます。袁術は孫策が江東で独立できるとは思っておらず、これを承諾します。歴陽で呉景の軍と合流した孫策は、そこで旧友である周瑜と再会します。周瑜は孫策に兵力・情報を提供し、共に江東制覇に尽力しました。

劉繇の部将が守る拠点を次々と制圧し、長江を渡った孫策は、劉繇が籠る要塞も陥落させます。敗れた劉繇は逃走し、孫策はさらに追撃して劉繇の勢力を駆逐していきます。この戦いの最中、孫策は太史慈と一騎打ちを繰り広げ、互角に渡り合ったという逸話も残っています。

袁術からの独立

地盤を確保した孫策は、袁術との関係を維持するため、借り受けていた兵を返却します。しかし、袁術は孫策の勢力拡大を警戒し、一族の袁胤を丹陽太守に任命しようとします。これに対し、孫策は武力をもって袁胤を追放し、ついに袁術に対して独立を宣言します。この時、周瑜も魯粛を連れて孫策の元へ合流しました。

独立後も、袁術に扇動された反乱軍を鎮圧し、勢力を拡大していきました。

躍進

江東の支配を宣言した孫策は、人材登用を積極的に行い、その勢力を盤石なものにしていきます。その中には呂蒙や、元は王朗配下であった虞翻も含まれていました。また、自ら会稽太守を称するとともに、江東の周辺郡の太守を任命しました。

孫策は電撃的に江東一帯を制覇しましたが、その苛烈な勢いがゆえに怨恨を抱かれ、各地に根強い抵抗勢力を抱えることになります。そのため、孫策は抵抗勢力の粛清に乗り出しました。これにより、厳虎をはじめとする多くの豪族や地方宗教勢力が粛清されました。また、かつて呉郡太守であった許貢を殺害しました。

袁術が皇帝を僭称し始めると、孫策は反袁術の姿勢を鮮明にするため、献帝を擁する曹操に近づきます。しかし、両者の関係は微妙なものであり、袁術の死を契機に崩れてしまいます。

袁術が死ぬと、旧袁術軍はこぞって劉勲のもとに身を寄せることになりました。孫策は劉勲に対し、上繚には宗教勢力が闊歩しており、それらへの対応に困っているとへりくだった手紙を送り、劉勲が上綜へ攻め入った隙に、本拠地の皖を急襲し陥落させました。これにより、袁術の旧臣や財産、そして多くの美女を得ることに成功しました。後に自らの妾とした橋公の娘大喬や、同じく橋公の娘で周瑜の妻となる小喬、他にも孫権の妻となる歩夫人・袁夫人もこの際に捕虜にしています。

進退極まった劉勲は西塞山に陣を敷き、黄祖に助けを求めますが、孫策は救援が到着する前に西塞山を陥落させ、劉勲は曹操のもとへ逃げ落ちました。これにより、孫策は廬江を手に入れ、勢力をさらに拡大しました。

孫策は次の敵として、父の仇である黄祖に攻撃を仕掛けますが、黄祖は劉表の援軍を得て防戦します。孫策は一時退却し、まずは豫章を平定することを先決とします。

孫策は豫章の太守を降伏させ、豫章南部を支配していた僮芝を壊滅させ、各地の抵抗勢力を鎮圧していき、江東の五郡をほぼその支配下に収めました。

突然の死

曹操は孫策を懐柔しようとしましたが、孫策は曹操が袁紹との戦いで手薄になっている隙を突いて、許都を攻略しようと計画します。

しかし、孫策が単独で外出中に、かつて殺害した許貢の客人に襲撃され、その矢が頬を貫通し、重傷を負いました。傷がもとで死期を悟った孫策は、弟の孫権を後継者に指名し、その補佐役として張昭を指名して亡くなりました。享年26。

死に際して、孫策は孫権に「お前は戦場での活躍は私に及ばないが、人材を登用し、江東を治めることにおいては、私よりも優れている」と伝え、江東の安定を託したとされています。

後に孫権は皇帝となり、孫策に長沙桓王の諡号を贈り、その功績を称えました。

人物像と評価

孫策は、おしゃれや笑話を好み闊達な性格であったと言われています。

郭嘉は孫策を「軽率で備えもなく、必ず匹夫の手で死ぬであろう」と評し、陳寿は「傑出した英気を具え、勇猛さと鋭敏さは並ぶ者がないほどだったが、軽佻果躁で身を滅ぼした」と評しています。

三国志演義での孫策

小説『三国志演義』では、「性烈如火」と気性が激しい性格として描かれています。また、劉繇との戦いにおいて、大声で敵将を驚かせて落馬死させたり、一騎打ちで太史慈と互角に戦うなど、勇猛さが強調されています。最期は、道士・于吉を殺した祟りで死んだという設定になっています。

まとめ

孫策は、その短い生涯の中で、江東を制覇し、三国時代の基礎を築いた英雄です。彼の卓越した武勇と知略は、多くの人々を魅了し、その名は歴史に刻まれています。

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