孫立人

孫立人（そん りつじん）：激動の時代を生きた軍人の生涯

孫立人（1900年 - 1990年）は、中華民国（台湾）の軍人であり、陸軍二級上将の階級を有していました。字は仲倫。日中戦争での活躍、特に新編第1軍軍長としてミャンマー方面で多大な軍事的功績を挙げたことで知られています。しかし、その後の政治的変遷の中で、蔣介石らから猜疑の目を向けられ、失脚という悲劇的な結末を迎えました。

若き日の学問とアメリカ留学

孫立人の父、孫熙沢は清朝末期の官僚であり、地方行政に携わっていました。孫立人は幼い頃から学問に励み、1914年には北京清華学校（後の清華大学）の土木工学部に入学しました。学業優秀であっただけでなく、バスケットボール選手としても活躍し、1921年の第5回極東選手権競技大会では中国代表として優勝に貢献しています。1923年に清華学校を卒業後、官費留学生としてアメリカに渡り、パデュー大学で土木工学をさらに学びました。パデュー大学で理学士号を取得した後、1925年にはバージニア士官学校に進学し、軍事教育を受けました。卒業後は欧米や日本を訪問し、各国の軍事事情を視察しました。

軍人としてのキャリアの始まり

1928年に帰国した孫立人は、中国国民党の中央党務学校で軍事訓練隊の隊長に抜擢されます。1931年には宋子文の紹介で総司令部侍衛総隊副隊長に就任、その後、中央政治学校に戻り訓練班主任を務めました。翌年、財政部税務警察総団が設立されると、孫立人は第4団（特種兵団）団長に任命されました。孫立人は、士官の選抜や訓練を厳格に行い、部隊の戦闘能力を大幅に向上させました。

日中戦争と太平洋戦争での活躍

1937年に日中戦争が勃発すると、孫立人率いる税警総団は第8軍として上海戦線に投入されました。孫立人は支隊司令として、第1軍軍長胡宗南の指揮下で日本軍と戦い、部隊は目覚ましい戦果を上げました。しかし、孫立人自身も最前線での指揮中に全身に13か所もの重傷を負い、香港で治療を受けることになりました。1938年7月に部隊に復帰すると、武漢会戦で再び勇戦し、軍功を挙げました。

その後、財政部が塩務総局緝私総隊を組織すると、孫立人が総隊長に任命され、湖南省で部隊の編成を開始しました。彼は独自の軍事訓練方法を採用し、体育活動を積極的に取り入れることで、わずか1年で緝私総隊を精鋭部隊に育て上げました。しかし、この部隊を軍統の戴笠が接収しようと画策し、1940年に孫立人は部隊の指揮権を奪われてしまいました。

その後、税警総団は新編第38師に再編され、孫立人は師長として復帰します。1942年4月、孫立人率いる新編第38師は、中国遠征軍の一員としてミャンマーに派遣されました。イェナンジョンの戦いでは、包囲されたイギリス軍7000人を救出するという大戦果を挙げ、孫立人の名は一躍有名になりました。この功績により、孫立人は英米両国から勲章を授与されました。

1943年10月には、新編第1軍がミャンマー北部の日本軍に対する反攻作戦を開始しました。孫立人は、各地を攻略し、6月にはモガウンを占領しました。この軍功により、新編第1軍の軍長に昇進します。その後も、日本軍との激戦を続け、1944年1月にはレド公路を回復し、3月末までにミャンマー北部の日本軍をほぼ掃討しました。

国共内戦と台湾での失脚

1945年7月、孫立人率いる新編第1軍は凱旋し、広西省南寧に駐留しました。その後、孫立人は欧州へ軍事視察に赴き、帰国後、新編第1軍は国民党軍の主力部隊の一つに数えられるようになりました。1946年3月、東北民主連軍討伐のため東北に派遣されましたが、次第に苦戦を強いられるようになります。1947年4月には東北保安司令部副司令長官に異動となり、事実上、新編第1軍の指揮権を失います。

その後、孫立人は台湾防衛のために新兵の訓練に携わり、1949年8月には東南軍政長官公署副長官兼台湾防衛司令に任命されました。1950年3月には、蔣介石が中華民国総統に復帰すると、孫立人は陸軍総司令兼保安総司令に起用されました。1952年には、中国国民党中央委員に選出され、台湾衛戍司令も兼任しました。

しかし、孫立人は蔣介石の専制的な統治に不満を抱いていました。また、アメリカ軍事顧問団と積極的に交流していたことも、蔣介石・蔣経国父子の不信感を増大させました。1954年6月、孫立人は陸軍総司令を突然罷免され、総統府参軍長に異動させられます。翌1955年6月には、部下の郭廷亮がクーデターを企てたという疑いで、孫立人自身も監視下に置かれました。同年8月、調査委員会が組織され、孫立人は参軍長を罷免され、軟禁処分を言い渡されました。この事件は「孫立人事件」として知られています。32年余りの軟禁生活を経て、1988年3月にようやく自由の身となりました。

1990年11月19日、孫立人は台中市で病没しました。享年92歳。

孫立人は、その軍事的才能とリーダーシップで多くの人々から尊敬を集めましたが、政治的な駆け引きの犠牲となり、晩年は不遇な生活を送りました。しかし、彼が残した功績は、今もなお語り継がれています。

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