宇田東植

宇田 東植（うだ とうしょく）

1948年8月23日に東京都杉並区で生を受けた宇田東植氏は、在日韓国人であり、韓国名は朱 東植（チュ・ドンシク）として知られる、日本のプロ野球界で投手として活躍し、引退後はコーチ、そして解説者としても活動した人物です。

子供の頃は野球ではなく音楽に親しみ、小学生時代には音楽部で部長を務め、NHKの子供音楽コンクールに出場するなどの経験があります。野球を始めたのは杉並区立杉並中学校に入学してからで、当初は三塁手でした。拓殖大学第一高等学校へ進学後に投手へ転向し、1964年の夏の東東京大会では3回戦でノーヒットノーランを達成するなど、投手としての素質を開花させました。

高校卒業後は1967年に中央大学へ進み、東都大学野球リーグでは同期の杉田久雄氏の控えを務めながら、通算35試合に登板し9勝3敗の成績を残しました。大学の先輩には末永正昭氏、後輩には榊原良行氏、そして同期には石渡茂氏ら、後にプロに進む選手たちがいました。大学卒業後の1971年、社会人野球の本田技研に入社。チームは都市対抗野球に出場しましたが、宇田氏に登板機会はありませんでした。

同年秋のドラフト会議で4位指名を受け、東映フライヤーズ（後の日本ハムファイターズ）に入団しプロ入り。1年目の1972年には、自主トレーニングでベテラン捕手も驚く速球を披露し、新人ながらも高い評価を得ました。当初は主に敗戦処理としての起用が多かったものの、二軍ではイースタン・リーグ最優秀防御率を獲得しています。

プロ入り初勝利は1975年8月27日の太平洋クラブライオンズ戦で救援登板にて記録。9月6日のロッテオリオンズ戦ではプロ入り初先発で初完投勝利を飾り2勝目を挙げました。しかしその後は登板機会が減り、1976年、1977年と連続で未勝利に終わるなど、苦しい時期を過ごします。

転機は1979年でした。新山隆史一軍投手コーチの指導のもと、アンダースロー投法に適した腰の回転を習得し、フォームを矯正。ストレートに加えて大小2種類のカーブ、落ちるシュートやシンカーを武器に、自己最多となる39試合に登板（先発7試合）、規定投球回にも到達しました。それまでのプロ7年間でわずか通算2勝だったのが、この年だけで自己最高の9勝をマークし、防御率3.47はリーグ7位に入る飛躍を遂げました。特に西武ライオンズ戦には強く、多くの勝ち星を挙げています。また、自身の誕生日である8月23日の試合に登板した際には、場内アナウンスで祝福される一幕もありました。

1980年5月13日の西武戦では、プロ9年目にして初の完封勝利を達成。チームがリーグ優勝を果たした1981年は登板機会は減りましたが、プレーオフ、そして読売ジャイアンツとの日本シリーズにも登板しました。日本シリーズ第4戦ではリリーフでマウンドに上がりましたが、ピンチを招き降板、チームは敗戦となりました。

1982年1月、阪神タイガースへ榊原良行氏とのトレードで移籍。阪神では主に中継ぎとして29試合に登板しましたが、この年限りで退団となります。

1983年からは韓国プロ野球へと活躍の場を移し、ヘテ・タイガースに入団。韓国名の「朱東植」を登録名としてプレーしました。金應龍監督のもと、同じ在日韓国人の金茂宗氏（木本茂美氏）とバッテリーを組み、この年は30試合に登板して7勝3セーブを記録。チームの韓国シリーズ優勝に大きく貢献し、シリーズでは2勝を挙げる活躍を見せました。シリーズ終了後には、相手チームの福士敬章氏（張明夫）と互いの健闘を称え合い、感動的な交流があったといいます。韓国球界入りは、張本勲氏から韓国が指導者を求めていると聞き、自身の技術や経験を伝えたいという熱意から実現したものでした。チームからは多大な感謝を受けましたが、1984年のシーズン途中に日本へ帰国し、同年限りで現役を引退しました。

現役引退後は野球解説者として活動を開始。特にTCN制作の日本ハム戦中継では長年にわたりレギュラー解説を務め、テレビ埼玉や千葉テレビ、GAORAなど多くのメディアに出演しました。東京ドームでの日本ハム戦に頻繁に足を運び、チームに密着した取材に基づいた軽妙な解説は、日本ハムファンからも広く親しまれました。ライオンズのリーグ優勝決定試合や、松坂大輔投手のプロ初登板初勝利試合など、記憶に残る試合の解説も担当しています。2002年から2003年には、再び韓国へ渡り、古巣・起亜タイガース（ヘテの後身）で投手コーチを務めました。帰国後も解説者として活動を続ける傍ら、日本でプレーする韓国人選手の相談役として、ミン・キファン氏や李承燁氏など、多くの選手のサポートも行いました。

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