安達吟光

安達吟光：明治時代の多才な浮世絵師

安達吟光（あだちぎんこう、1853年-1902年）は、明治時代の代表的な浮世絵師の一人です。師については不明な点が多いものの、戊辰戦争や西南戦争といった激動の時代を背景に活躍し、歴史絵、役者絵、美人画、風俗画など、多様なジャンルの作品を描きました。

初期には「松雪斎銀光」の画名を使用し、明治3年（1870年）頃には戊辰戦争を描いた錦絵を発表しています。明治7年（1874年）以降は「安達吟光」と改名し、数々の作品を発表しました。その作風は時代を反映し、歴史的な出来事や社会情勢を反映した作品が多く見られます。

特に明治10年（1877年）の西南戦争を描いた錦絵「鹿児島新聞・河尻本陣図」「鹿児島新聞・熊本城戦争図」などは、その高い芸術性と歴史的価値から注目を集めています。これらの作品は、戦争の激しさや悲惨さを克明に描写し、当時の世相を伝える貴重な資料となっています。

安達吟光は、戦争絵だけでなく、役者絵や芝居絵、名所絵といったジャンルにも取り組みました。「講談一席読切」という大判錦絵50番続の役者絵シリーズも制作しています。これらの作品は、当時の大衆文化や芸能を反映したものであり、庶民の生活や娯楽の様子を知る上で貴重な資料です。

また、安達吟光は「古今名婦鏡」や「貴女裁縫之図」などの美人画・風俗画も制作しており、その繊細な筆致と洗練された表現は高い評価を得ています。これらの作品は、当時の女性の美意識や生活様式を反映したものであり、美術史的な価値も高いと言えます。

しかし、安達吟光の生涯は順風満帆ではありませんでした。明治22年（1889年）、宮武外骨の雑誌『頓智協会雑誌』に掲載された大日本帝国憲法発布のパロディ作品「頓智研法発布式」が不敬罪として問題となり、有罪判決を受けました。この事件は、安達吟光の創作活動に大きな影を落とすこととなります。

安達吟光の代表作としては、以下のような作品が挙げられます。

歴史画：「鎮撫鹿児島新聞」、「鹿児島新聞山鹿戦争之図」、「明治会堂之図」、「朝鮮変報」、「明治会堂演説之図」、「聯合軍北京城攻撃」、「大日本帝国議会之図」、「其初 朝鮮発端」、「軍人名誉：原田重吉氏」、「軍人名誉：樺山中将」、「旅順口附近大激戦」、「我軍大挙シテ平壌城ヲ乗取ノ図」、「我軍平壌の清兵を襲撃する図」、「我軍九連城敵兵攻撃ス」、「海城激戦之図」など。
役者絵・芝居絵：「講談一席読切」シリーズなど。
美人画・風俗画：「古今名婦鏡」、「貴女裁縫之図」、「大日本婦人束髪図解」など。
その他：「銀婚式祝典之図」、「大江戸芝居年中行事」など。

これらの作品は、東京都立中央図書館、石川県立美術館、神奈川県立歴史博物館、メトロポリタン美術館、大英図書館、パトリシア＆フィリップ・フロスト美術館など、国内外の美術館や図書館に所蔵されています。

安達吟光は、明治時代の激動期を生き抜き、その時代を反映した多様なジャンルの作品を制作した、重要な浮世絵師と言えるでしょう。彼の作品は、近代日本の歴史や文化を理解する上で貴重な資料であり、美術史においても重要な位置を占めています。

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