宗教的排他主義

宗教的排他主義（しゅうきょうてきはいたしゅぎ）

宗教的排他主義とは、自らの信仰する宗教こそが唯一絶対の真理であると主張し、他のいかなる宗教もそれより劣る、あるいは誤りであるとみなす考え方や教義を指します。これは、自らが信じる宗教が、他のいかなる宗教よりも優れているという主張に他なりません。宗教的な真理に関する主張において、ある特定の宗教的視点のみが、対立する他のすべての宗教的視点より優位であるという考え方を否定する場合にのみ、その立場は宗教的排他主義ではないと見なすことができます。さらに、宗教間で異なる真理について、単一の宗教的見解が他の全てに勝ることはないというだけでなく、多様な真理の主張を等しく肯定する場合に、宗教的多元主義者であると認定されます。

各宗教における排他主義的な側面

歴史的にも現代においても、多くの宗教において排他主義的な考え方が見られることがあります。

キリスト教

キリスト教において排他主義の立場をとる人々は、「真実は一つであり、多数ではない」という哲学的な概念を根拠に、キリスト教の啓示が唯一の真実であると確信し、他の宗教が提示する主張を無効であると見なすことがあります。ただし、排他主義者の中でも穏健な立場の人々は、キリスト教以外の宗教の中にも何らかの徳や価値が存在することを認める場合もあります。宗教的包括主義者は、救済はキリストによってのみもたらされるという点では排他主義者と共通しますが、「神はすべての人が救われることを願っている」という聖書の言葉を重視し、キリストを自覚的に信じていない人々にも救済の可能性が及ぶと考えます。しかし、この包括主義的な考え方も、他の宗教から見れば「結局はキリストによる救済に集約される」という点で、傲慢な排他主義として受け取られる可能性もあります。例えば、ヒンドゥー教徒やイスラーム教徒を含む全ての人々が、自覚しないうちにキリストによって救済されるという主張は、排他主義的な色彩を帯びて映ることがあります。
カトリック教会は第二バチカン公会議（1962-1965）を経て、「キリスト教の教えに十分な理解や確信を持てない人々や、洗礼を受けていない人々が決して滅びることはない」との見解を示すなど、より開かれた姿勢を見せています。プロテスタント教会の中にも、「信仰を持たない人々の救いについても、神の広大な愛に委ねることができる」と考える教会が増えています。また、排他主義の立場であっても、救済に直接結びつかないものの、異教徒にも与えられる神の恵みとしての「一般恩寵」が認められてきました。神学者ジョン・グレッサム・メイチェンは、異教徒に救済はないとしつつも、彼らの中に優れた文化が存在することを高く評価しており、異教全体が無価値であるとは考えていません。

神道

日本の歴史においては、崇仏・廃仏論争が宗教的な排他主義の事例として挙げられます。物部氏や中臣氏といった勢力は、古来より多数の神々が祀られている日本の国土に、新たに外来の仏教を受け入れることは、国土の神々の怒りを招くとして強く反対しました。疫病の流行が起きると、彼らはそれを仏教導入による神罰であるとして、仏像の破棄や寺の焼却を主張しました。宗教学者ジョン・ネルソンは、神道の儀式が政治権力を神聖化するために用いられてきた歴史に触れ、神道の根底にナショナリズム（絶対主義、排他主義、権威主義）の要素が潜んでおり、これが利用されることで個人の自由や権利が脅かされる危険性を指摘しています。

道教

唐代の武宗皇帝は道教に深く傾倒し、道士たちの進言に従って大規模な廃仏を行いました。仏教寺院の破壊と財産の没収、僧尼の還俗を断行し、仏教以外の外来宗教であるマニ教、ゾロアスター教、ネストリウス派キリスト教なども禁止しました。

儒教

儒教の視点からも、仏教を排斥する動きが見られました。中国古来の文化の中心である華夏（中国）と比較して、仏教は「夷狄（いてき）」すなわち野蛮な異民族の宗教と見なされました。儒学者たちは、華夏が一方的に夷狄を教化すべきであるという考えに基づき、仏教を批判しました。三武一宗の法難として知られる仏教弾圧の歴史においても、後周を除く三度の廃仏は、儒教の理念を基盤としつつ、異教徒である仏教勢力への弾圧という側面を持っていました。仏教の出家や剃髪といった習慣は、親への孝を重んじる儒教倫理に反すると攻撃され、仏説の非現実性や輪廻転生、応報、天堂地獄といった教義も批判の対象となりました。

仏教

仏教においても、仏教以外の教えを「外道（げどう）」と呼び、自らの教えを「内道（ないどう）」として区別する概念があります。「外道」は異教や邪道を指す言葉としても使われ、時に人を罵るためにも用いられました。スリランカの歴史神話『マハーワンサ』には、仏教徒の王が異教徒の王とその軍隊を討伐し、多数の人々を殺害したことを嘆いた際に、高僧たちが「獣にも劣る異教徒を殺したのだから罪はない」と慰めたという記述があります。また、釈迦がスリランカを訪れ、仏教に敵対する非人間的な住民を追い払ったという話も語られており、自らの教えの優位性を示すために排他的な言説が用いられた例と言えます。

イスラーム

イスラームにおいても、「イスラーム以外の信仰はすべて価値のない誤った教えであり、救われることはない」と主張する、強い排他性を帯びた考え方が存在します。

その他の宗教

特定の団体や宗派において、自らの信仰のみが正しく、他の信仰は認められないという排他的な主張が見られるケースは、上記の主要宗教以外にも存在します。

各国における排他主義の傾向

国際的な価値観の比較調査によると、日本や無神論が強いとされる中国では、他宗教に対して比較的排他的な姿勢が見られます。一方、プロテスタントが多数を占めるアメリカ、カトリックが多いブラジル、ムスリムが多いパキスタンなどでは、比較的他宗教への寛容度が高いという結果が出ています。例えば、「他宗教の信者も道徳的である」と回答した人の割合は、アメリカやブラジルが約8割近くに達するのに対し、日本は約1割程度にとどまっています。これは、日本では自らの宗教（あるいは宗教とは関係なく）が他の宗教よりも優れた道徳規範を持つと考える宗教的排他主義の意識が根強い可能性を示唆しています。

比較宗教学からの考察

宗教的排他主義の立場を取る人々には、布教に熱心な傾向が見られます。これは、自らの宗教だけが救済をもたらすと信じているため、他の人々にもその救いの可能性を広めることを自身の使命と感じている場合が多いからです。
前近代においては、宗教と国家が緊密に結びついており、国家間や民族間の紛争が宗教間の対立の色合いを強く帯びることが少なくありませんでした。また、現代のような人類全体を一つの共同体と見なす意識は希薄でした。そのため、宗教的排他主義は現代と比較して強く現れる傾向がありました。
排他主義という言葉が、暴力的な手段を伴うものと誤解されることもありますが、宗教的排他主義はあくまで思想上の立場であり、他の宗教の価値を認めないという内面的な考え方です。特に現代では、宗教的排他主義の信奉者であっても、暴力的な手法には否定的な人々が多数を占めています。
また、「排他主義は一神教に固有のものであり、多神教には存在しない」という主張が、特に多神教の信奉者からなされることがあります。しかし、日本の廃仏毀釈や国家神道の思想、インドにおけるヒンドゥー至上主義など、歴史的に見れば多神教の中にも強い排他主義的な側面が現れた事例が存在します。したがって、排他主義が一神教に特有の現象だと断言することはできません。さらに、排他主義的な思想が広まる背景には、貧困や格差といった社会・経済的な問題が複雑に絡み合っていることが多く、純粋に宗教的な理由だけで排他主義が生まれることは稀であると言えます。

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