ジョン・グレッサム・メイチェン
ジョン・グレッサム・メイチェン（John Gresham Machen、1881年7月28日 - 1937年1月1日）は、20世紀初頭のアメリカ合衆国における長老派教会の神学者です。
メイチェンは、1915年から1929年までプリンストン神学校で新約聖書学の教授を務めました。しかし、プリンストン神学校が次第に近代主義的な自由主義神学（リベラル）を受け入れるようになったことに反対し、福音主義の正統的な信仰を守るため、ウェストミンスター神学校を設立しました。
所属していたアメリカ合衆国長老教会（PCUSA）がリベラル化の方向へ進み、ウェストミンスター信仰告白の遵守を拒んだため、正統長老教会（OPC）を創立しました。1920年にPCUSAが対話を拒否し、自由主義神学的な路線でプリンストン神学校を再編成すると決定したため、メイチェンはフィラデルフィアにウェストミンスター神学校を設立し、亡くなるまで新約聖書を教えました。
1930年代には、リベラルに対抗する活動として、独立長老教会海外宣教ミッション（The Independent Board for Presbyterian Foreign Missions, 1933年）を設立しました。1935年、1936年の独立ミッションのメンバーに対するミニストリーの執行停止処分は、OPCが形成される直接的な理由となりました。
メイチェンは、19世紀初頭に創立され、発展を遂げたプリンストン神学の最後の神学者とみなされています。彼は福音主義キリスト教のカルヴァン主義系の福音派に属していました。チャールズ・ホッジやウォーフィールドといった偉大なプリンストン神学者と比較されますが、メイチェンは神学（新約聖書学）を教えることに専念し、神学校の校長には就任しませんでした。今日でもメイチェンの影響はウェストミンスター神学校と正統長老教会に強く残っており、彼の著書『新約聖書ギリシャ語原典入門』は、PCUSAを含む多くの神学校で教科書として使用されています。
メイチェンは、ボルチモアで生まれました。父は弁護士で、結婚当時45歳、母は24歳でした。父は米国聖公会、母は長老教会の教会員で、幼い頃からウェストミンスター小教理問答を教えられました。家族はフランクリン・ストリートの長老教会で礼拝を守っていました。メイチェンは特権的な教育を受けたとされ、私立大学でラテン語、ギリシア語など古典的な教育を受け、ピアノのレッスンも受けていました。
1898年、17歳でジョンズ・ホプキンス大学に入学し、奨学金を得ました。大学では古典文学を専攻し、1901年に卒業した際には、優秀な学者としてPhi Beta Kappa Societyに認められました。
将来についてはまだ決まっていませんでしたが、プリンストン神学校で神学を、プリンストン大学の文学修士課程で哲学を学びました。
1905年から一年間、ドイツで神学研究を行いました。彼は父親に手紙を送り、ハーマン教授の自由主義神学によって信仰が動揺させられたと述べています。メイチェンは教授を尊敬していましたが、ドイツの近代主義神学者との出会いは、かえってメイチェンに正統的な改革派神学を受け入れさせるきっかけとなりました。
1906年からプリンストン神学校の講師となりました。当時のプリンストンには、フランシス・パットン（異端見分けの専門家）やウォーフィールドがいました。ウォーフィールドは、正統教理こそクリスチャンが周囲に影響を与えてきた手段であると主張し、聖書観は聖書信仰であり、聖書の超自然性を擁護しました。自由主義神学に動揺させられていたメイチェンの信仰の危機は、彼らによって解決されました。1914年には牧師按手を受け、翌年には新約聖書学の助教授となりました。
第一次世界大戦中、戦闘員としてではなく、YMCAと共に奉仕員としてフランスへ行きました。非戦闘員ではありましたが、現代の戦争による荒廃と悲惨を目の当たりにしました。
ヨーロッパから帰国後、メイチェンは新約聖書の学者として働き続けました。彼は、増大する疾病に例えられる近代主義神学（モダニズム、リベラル）と議論できる、本物の学者であると評価されました。
『パウロ宗教の起源』（The Origin of Paul's Religion, 1921年）は、メイチェンの最も有名な学術書です。この本で彼は、「使徒パウロの宗教はギリシア哲学に基づいたものであり、イエス・キリストの宗教とは別物だ」という、リベラル神学の主張に反駁しました。
『キリスト教とは何か-リベラリズムとの対決』（Christianity and Liberalism, 1923年）は、近代神学を批判したメイチェンの著作で、キリスト教と自由主義神学の相違点を比較しています。彼はこの本で、「自由主義神学はキリスト教とは別の宗教である」、「現代におけるキリスト教の主要な敵は、自由主義神学である」、「キリスト教は聖書の上に立てられているが、自由主義神学は罪人の感情の上に立てられる」と結論付けました。
これらの著書は、メイチェンを長老教会の中で神学的陣営に立たせました。1920年代の彼の働きは、プリンストン神学校と福音的な長老教会での働きに費やされました。
メイチェンは保守的な神学的立場にありましたが、大衆的なキリスト教根本主義運動を完全には受け入れませんでした。彼はキリスト教根本主義の運動で多くの人が信じた前千年王国説などを認めませんでしたが、それは改革派神学こそが聖書的なキリスト教信仰であるという立場によったからです。この神学が当時のキリスト教根本主義運動に欠けていたと彼は考えました。さらにメイチェンの学者としての働きと近代神学に対する力は、根本主義運動の一部に見られた反知性的な態度とは相容れませんでした。
1924年から1925年にかけて、プリンストン神学校における彼の立場は難しくなりました。長老教会が学部が二つの派に分かれていることについて質問したためです。メイチェンは、その原因は教理の重要な違いにあると答えました。彼はチャールズ・アードマンが教理的な誤りを容認した事実を指摘しました。アードマンはドワイト・ライマン・ムーディーを持ち出し、「論争家はキリストに従う者ではないとムーディーは知っていた」と密かに書きました。
1929年の大会（General Assembly）は、リベラルの影響下でプリンストン神学校の再編成を決定し、リベラルのオーバーン宣言（Auburn Affirmation）の署名者を役員に任命しました。オーバーン宣言は、リベラル牧師のハリー・エマーソン・フォスディックが1922年5月に行った説教「キリスト教根本主義は勝利を収めるか？」から起こった論争への回答を批判した、長老教会のリベラル派による回答でした。メイチェンと数人の同僚は、改革派の正統な神学を継承するため、ウェストミンスター神学校を設立しました。
1933年、メイチェンはリベラルの影響を危惧し、独立したミッション（宣教団体）を設立しました。次の長老教会の大会は、メイチェンの独立ミッションをやめさせるため、その働きに関係する牧師に最後通牒を突きつけました。メイチェンと7人の牧師がそれを拒否したため、長老教会のミニストリーの執行を停止させられました。そのため、メイチェンは正統長老教会を設立しました。
メイチェンは1936年12月にノースダコタ州で行われた講演中、寒気により肋膜炎を患いました。クリスマスの後、肺炎で入院し、1937年1月1日に亡くなりました。享年55歳でした。彼の早すぎる死は、彼が指導者であった運動に関わっていた人々に大きな悲しみをもたらしました。
彼は亡くなる直前に、長年の友人で同僚のジョン・マーレーに電報を送りました。その電報は彼の生涯の信仰を深く表しています。「私はキリストの積極的服従に感謝する。それゆえに望み無きものではない。」彼はボルチモアの墓地に埋葬されました。
神学者、キリスト教指導者としてのメイチェンは、プロテスタント正統主義の聖書観と教理を保持する正統的なプロテスタントに強い影響を与えています。日本では、日本キリスト改革派教会の創立者である常葉隆興牧師、岡田稔牧師、春名寿章牧師がメイチェンに師事しました。また、岡田牧師は日本基督改革派創立以前の1944年に亡くなった角田桂嶽牧師を、日本におけるメイチェンの真の弟子と呼んでいます。
『キリスト教とは何か : リベラリズムとの対決』聖書図書刊行会 いのちのことば社、2000年
『キリストの処女降誕』いのちのことば社、1996年
『新約聖書ギリシャ語原典入門』田辺滋訳 新生運動、1967年
『パウロ宗教の起源 : キリスト教起源論』聖書図書刊行会、1958年
『パウロ宗教の成立』高橋一男、黒田四郎訳 一粒社、1933年
『基督教とは何ぞや : リベラリズムと對比して』角田桂嶽 長崎書店、1933年
『歴史と信仰』岡田五作 一粒社、1932年
『信仰とは何ぞや』角田桂嶽 一粒社、1931年
『神と人間』角田桂嶽 いのちのことば社、聖書図書刊行会
The Origin of Paul's Religion by Machen
Christianity and Liberalism by Machen
Christianity and Culture an essay by Machen
A Brief Bible History: A Survey of the Old and New Testaments by Machen and James Boyd
A Short History of the Life of J. G. Machen by Professor Craig S. Hawkins
J. Gresham Machen Sean Richardson's links to articles by Machen on various sites.
Machen's Warrior Children by John M. Frame
The Machen trial by an unidentified newspaper of the time.
John Gresham Machen's Gravesite
J. Gresham Machen: A Forgotten Libertarian
Machen and the OPC
生涯
メイチェンは、1915年から1929年までプリンストン神学校で新約聖書学の教授を務めました。しかし、プリンストン神学校が次第に近代主義的な自由主義神学（リベラル）を受け入れるようになったことに反対し、福音主義の正統的な信仰を守るため、ウェストミンスター神学校を設立しました。
所属していたアメリカ合衆国長老教会（PCUSA）がリベラル化の方向へ進み、ウェストミンスター信仰告白の遵守を拒んだため、正統長老教会（OPC）を創立しました。1920年にPCUSAが対話を拒否し、自由主義神学的な路線でプリンストン神学校を再編成すると決定したため、メイチェンはフィラデルフィアにウェストミンスター神学校を設立し、亡くなるまで新約聖書を教えました。
1930年代には、リベラルに対抗する活動として、独立長老教会海外宣教ミッション（The Independent Board for Presbyterian Foreign Missions, 1933年）を設立しました。1935年、1936年の独立ミッションのメンバーに対するミニストリーの執行停止処分は、OPCが形成される直接的な理由となりました。
メイチェンは、19世紀初頭に創立され、発展を遂げたプリンストン神学の最後の神学者とみなされています。彼は福音主義キリスト教のカルヴァン主義系の福音派に属していました。チャールズ・ホッジやウォーフィールドといった偉大なプリンストン神学者と比較されますが、メイチェンは神学（新約聖書学）を教えることに専念し、神学校の校長には就任しませんでした。今日でもメイチェンの影響はウェストミンスター神学校と正統長老教会に強く残っており、彼の著書『新約聖書ギリシャ語原典入門』は、PCUSAを含む多くの神学校で教科書として使用されています。
幼年時代
メイチェンは、ボルチモアで生まれました。父は弁護士で、結婚当時45歳、母は24歳でした。父は米国聖公会、母は長老教会の教会員で、幼い頃からウェストミンスター小教理問答を教えられました。家族はフランクリン・ストリートの長老教会で礼拝を守っていました。メイチェンは特権的な教育を受けたとされ、私立大学でラテン語、ギリシア語など古典的な教育を受け、ピアノのレッスンも受けていました。
青年時代
アメリカの学生生活
1898年、17歳でジョンズ・ホプキンス大学に入学し、奨学金を得ました。大学では古典文学を専攻し、1901年に卒業した際には、優秀な学者としてPhi Beta Kappa Societyに認められました。
将来についてはまだ決まっていませんでしたが、プリンストン神学校で神学を、プリンストン大学の文学修士課程で哲学を学びました。
ドイツ自由主義神学との遭遇
1905年から一年間、ドイツで神学研究を行いました。彼は父親に手紙を送り、ハーマン教授の自由主義神学によって信仰が動揺させられたと述べています。メイチェンは教授を尊敬していましたが、ドイツの近代主義神学者との出会いは、かえってメイチェンに正統的な改革派神学を受け入れさせるきっかけとなりました。
プリンストン神学校時代
前哨戦
1906年からプリンストン神学校の講師となりました。当時のプリンストンには、フランシス・パットン（異端見分けの専門家）やウォーフィールドがいました。ウォーフィールドは、正統教理こそクリスチャンが周囲に影響を与えてきた手段であると主張し、聖書観は聖書信仰であり、聖書の超自然性を擁護しました。自由主義神学に動揺させられていたメイチェンの信仰の危機は、彼らによって解決されました。1914年には牧師按手を受け、翌年には新約聖書学の助教授となりました。
第一次世界大戦
第一次世界大戦中、戦闘員としてではなく、YMCAと共に奉仕員としてフランスへ行きました。非戦闘員ではありましたが、現代の戦争による荒廃と悲惨を目の当たりにしました。
メイチェン論争へ
ヨーロッパから帰国後、メイチェンは新約聖書の学者として働き続けました。彼は、増大する疾病に例えられる近代主義神学（モダニズム、リベラル）と議論できる、本物の学者であると評価されました。
『パウロ宗教の起源』（The Origin of Paul's Religion, 1921年）は、メイチェンの最も有名な学術書です。この本で彼は、「使徒パウロの宗教はギリシア哲学に基づいたものであり、イエス・キリストの宗教とは別物だ」という、リベラル神学の主張に反駁しました。
『キリスト教とは何か-リベラリズムとの対決』（Christianity and Liberalism, 1923年）は、近代神学を批判したメイチェンの著作で、キリスト教と自由主義神学の相違点を比較しています。彼はこの本で、「自由主義神学はキリスト教とは別の宗教である」、「現代におけるキリスト教の主要な敵は、自由主義神学である」、「キリスト教は聖書の上に立てられているが、自由主義神学は罪人の感情の上に立てられる」と結論付けました。
これらの著書は、メイチェンを長老教会の中で神学的陣営に立たせました。1920年代の彼の働きは、プリンストン神学校と福音的な長老教会での働きに費やされました。
メイチェンは保守的な神学的立場にありましたが、大衆的なキリスト教根本主義運動を完全には受け入れませんでした。彼はキリスト教根本主義の運動で多くの人が信じた前千年王国説などを認めませんでしたが、それは改革派神学こそが聖書的なキリスト教信仰であるという立場によったからです。この神学が当時のキリスト教根本主義運動に欠けていたと彼は考えました。さらにメイチェンの学者としての働きと近代神学に対する力は、根本主義運動の一部に見られた反知性的な態度とは相容れませんでした。
論争
1924年から1925年にかけて、プリンストン神学校における彼の立場は難しくなりました。長老教会が学部が二つの派に分かれていることについて質問したためです。メイチェンは、その原因は教理の重要な違いにあると答えました。彼はチャールズ・アードマンが教理的な誤りを容認した事実を指摘しました。アードマンはドワイト・ライマン・ムーディーを持ち出し、「論争家はキリストに従う者ではないとムーディーは知っていた」と密かに書きました。
ウェストミンスター神学校
1929年の大会（General Assembly）は、リベラルの影響下でプリンストン神学校の再編成を決定し、リベラルのオーバーン宣言（Auburn Affirmation）の署名者を役員に任命しました。オーバーン宣言は、リベラル牧師のハリー・エマーソン・フォスディックが1922年5月に行った説教「キリスト教根本主義は勝利を収めるか？」から起こった論争への回答を批判した、長老教会のリベラル派による回答でした。メイチェンと数人の同僚は、改革派の正統な神学を継承するため、ウェストミンスター神学校を設立しました。
正統長老教会
1933年、メイチェンはリベラルの影響を危惧し、独立したミッション（宣教団体）を設立しました。次の長老教会の大会は、メイチェンの独立ミッションをやめさせるため、その働きに関係する牧師に最後通牒を突きつけました。メイチェンと7人の牧師がそれを拒否したため、長老教会のミニストリーの執行を停止させられました。そのため、メイチェンは正統長老教会を設立しました。
死
メイチェンは1936年12月にノースダコタ州で行われた講演中、寒気により肋膜炎を患いました。クリスマスの後、肺炎で入院し、1937年1月1日に亡くなりました。享年55歳でした。彼の早すぎる死は、彼が指導者であった運動に関わっていた人々に大きな悲しみをもたらしました。
彼は亡くなる直前に、長年の友人で同僚のジョン・マーレーに電報を送りました。その電報は彼の生涯の信仰を深く表しています。「私はキリストの積極的服従に感謝する。それゆえに望み無きものではない。」彼はボルチモアの墓地に埋葬されました。
後継者
神学者、キリスト教指導者としてのメイチェンは、プロテスタント正統主義の聖書観と教理を保持する正統的なプロテスタントに強い影響を与えています。日本では、日本キリスト改革派教会の創立者である常葉隆興牧師、岡田稔牧師、春名寿章牧師がメイチェンに師事しました。また、岡田牧師は日本基督改革派創立以前の1944年に亡くなった角田桂嶽牧師を、日本におけるメイチェンの真の弟子と呼んでいます。
著書
『キリスト教とは何か : リベラリズムとの対決』聖書図書刊行会 いのちのことば社、2000年
『キリストの処女降誕』いのちのことば社、1996年
『新約聖書ギリシャ語原典入門』田辺滋訳 新生運動、1967年
『パウロ宗教の起源 : キリスト教起源論』聖書図書刊行会、1958年
『パウロ宗教の成立』高橋一男、黒田四郎訳 一粒社、1933年
『基督教とは何ぞや : リベラリズムと對比して』角田桂嶽 長崎書店、1933年
『歴史と信仰』岡田五作 一粒社、1932年
『信仰とは何ぞや』角田桂嶽 一粒社、1931年
『神と人間』角田桂嶽 いのちのことば社、聖書図書刊行会
外部リンク
The Origin of Paul's Religion by Machen
Christianity and Liberalism by Machen
Christianity and Culture an essay by Machen
A Brief Bible History: A Survey of the Old and New Testaments by Machen and James Boyd
A Short History of the Life of J. G. Machen by Professor Craig S. Hawkins
J. Gresham Machen Sean Richardson's links to articles by Machen on various sites.
Machen's Warrior Children by John M. Frame
The Machen trial by an unidentified newspaper of the time.
John Gresham Machen's Gravesite
J. Gresham Machen: A Forgotten Libertarian
Machen and the OPC
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