宝尋常高等小学校

宝尋常高等小学校（たからじんじょうこうとうしょうがっこう）は、かつて北海道函館市に存在した公立の小学校です。明治期の北海道開拓が進む中で、地域の教育を担う近代的な機関の一つとして設立されました。

概要

函館の中心部からやや離れた位置にあったことが幸いし、市街を襲う大規模な火災の影響を受けにくかったことから、その規模の大きさと安定した運営により、函館における学校教育の要としての役割を担うことになりました。20世紀に入る頃には、その教育水準や実績が全国的にも知られる有名校となっていたと言われています。

沿革

宝尋常高等小学校の歴史は、明治11年（1878年）6月13日の布達をもって「公立宝学校」として設立されたことに始まります。同年7月10日には開業式が行われ、教育活動がスタートしました。

明治16年（1883年）には、明治13年教育令の施行に伴い「公立宝小学校」と改称され、初等科、中等科、高等科の全ての課程を併せ持つ総合的な学校となりました。しかし、その後の教育制度の変遷の中で、明治20年（1887年）7月1日には一時的に「公立弥生小学校宝分校」となりますが、明治23年（1890年）1月には再び「公立宝小学校」として独立を果たしました。

明治28年（1895年）4月には、明治23年小学校令の施行を受けて現在の名称である「公立宝尋常高等小学校」となりました。学校施設の拡充も進められ、明治30年（1897年）10月2日には校舎の改築が完了しています。また、明治36年（1903年）6月9日には、学習機会を増やすための2部教授が認可されました。夜間教育にも力を入れ、明治38年（1905年）7月1日には「公立宝補習夜学校」が付置されましたが、これは明治44年（1911年）3月23日に閉鎖されています。

学校の運営は順調に進んでいるように見えましたが、函館という土地柄、度重なる火災に見舞われることになります。明治40年（1907年）8月25日の大火では校舎が焼失するという甚大な被害を受け、児童たちは一時的に東川尋常小学校へ収容されました。しかし、翌明治41年（1908年）9月1日には新築校舎が無事落成し、教育活動が再開されました（一部校舎は同年2月11日に完成し移転、補習夜学校は4月1日に再開）。さらに明治42年（1909年）7月13日には屋内運動場も完成し、施設面でも充実が図られました。

大正期に入ると、大正15年（1926年）7月1日には校舎内に「函館市立宝青年訓練所」が開設され、地域における青年教育にも貢献しました（これは昭和10年（1935年）に青年学校へと改組）。また、昭和7年（1932年）からは、困窮する家庭の児童への支援として、欠食児童への弁当配給が開始されるなど、社会的な役割も果たしました。

昭和9年（1934年）3月21日に発生した函館大火は、再び宝尋常高等小学校に大きな被害をもたらしました。校舎は再び焼失し、児童たちは弥生女子尋常小学校への収容を余儀なくされました。その後、昭和11年（1936年）1月9日には住吉尋常小学校（後に青柳尋常小学校と改称）へ収容替えとなり、同年9月9日には統合された新しい校舎への移転が完了しました。

そして、昭和12年（1937年）3月31日をもって、宝尋常高等小学校はその歴史の幕を閉じました。この日、高等科が廃止されるとともに、公立第二東川尋常小学校と共に新設された公立東川尋常小学校へと統合される形で、学校は廃止されました。

所在地

学校はかつて函館市宝町33番地に位置していました。これは現在の豊川町3番地から宝来町34番地にかけての一帯にあたります。現在、函館市女性センター（東川町11-12）の敷地内に学校の校章と校歌が刻まれた跡地の碑が建立されていますが、実際の学校があった場所は、この碑が立つ場所から道路を挟んだ向かい側になります。

関係者

宝尋常高等小学校からは、様々な分野で活躍する多くの人材が巣立っていきました。主な出身者としては、タップダンサー、コメディアン、俳優として知られる木戸新太郎氏、興行師や事業家として活動した神彰氏、そして画家や彫刻家として名を残した梁川剛一氏などがいます。

また、教職員の中にも特筆すべき人物がいます。長尾含氏は明治27年（1894年）から大正4年（1915年）にかけて校長を務め、学校の発展に尽力しました。さらに、明治41年（1908年）から明治42年（1909年）にかけて代用教員として在籍していた石川節子氏は、歌人・石川啄木の妻として知られています。啄木が二度目の上京を果たした際、函館に残った節子氏が夫を支えるためにこの学校で教鞭をとっていたというエピソードが残されています。

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