室内交響曲第1番 (シェーンベルク)

室内交響曲第1番ホ長調 作品9

アルノルト・シェーンベルク（Arnold Schönberg）が作曲した2曲の室内交響曲のうち、最初に手がけられたのが室内交響曲第1番ホ長調 作品9です。1906年に完成されたこの作品は、当時の音楽界において極めて革新的な試みを含んでいました。

画期的な編成

本作は15人の奏者という小規模なアンサンブルのために書かれていますが、その編成は当時の常識を覆すものでした。フルート（ピッコロ持ち替え）、オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット、コントラファゴットといった倍管を伴う管楽器群と、ホルン2本に対し、弦楽器はヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバスという各1パートのみという構成です。

伝統的なオーケストレーションでは、多数の弦楽器が管楽器の響きを支え、包み込むのが一般的でした。しかし、この作品では管楽器の数が弦楽器の倍以上という比率になっており、弦楽器が管楽器を圧倒的に上回る従来の常識とは真っ向から対立する配置です。これにより、全体として極めて鋭角的で刺激的な音色が生み出されています。この管楽器偏重の傾向は、後にシェーンベルク自身が編曲したフル・オーケストラ版（作品9b）においても、その特徴を失わずに保たれています。偶然にも、イーゴリ・ストラヴィンスキーが弦楽器の持つ叙情性を嫌い、管楽器の表現力を追求するようになる10年以上も前の作品であることは、その先駆性を物語っています。

楽曲形式と内容

楽曲は単一楽章で構成されていますが、その内部には大規模なソナタ形式を基盤としつつ、スケルツォや緩徐楽章にあたる部分が組み込まれており、実質的には多楽章制の要素を内包しています。約21分間の演奏を通して、多様な性格を持つ楽想が展開され、複雑な構成美を示しています。

初演と評価

作品の初演は1907年2月8日、ウィーンで行われました。ウィーン宮廷歌劇場管弦楽団のメンバーとロゼー弦楽四重奏団が演奏を担当しました。この初演は聴衆にとって大きな衝撃を与え、会場では強い非難が巻き起こりました。しかし同時に、一部の聴衆からは新しい響きを評価する声も聞かれました。その場に居合わせた作曲家グスタフ・マーラーは、騒然とする会場で毅然とした態度で拍手を続け、野次を飛ばす聴衆を諫めるあまり、騒動になりかけたというエピソードが残されています。ただし、マーラー自身も作品を完全に理解したわけではなく、帰途、妻のアルマに「曲のよさはわからないが、おそらくシェーンベルクが正しいだろう」と語ったと伝えられており、その革新性に対する彼の複雑な思いが垣間見えます。

日本における初演は、それから半世紀以上を経た1961年8月27日、大阪の御堂会館にて行われました。森正の指揮のもと、現代音楽祭室内管弦楽団が演奏しました。

多様な編曲版

この作品は、その独特な編成ゆえに、様々な編曲版が存在します。作曲者自身も1914年に、より一般的な管弦楽編成（作品9b）へと拡大・編曲しており、1935年に改訂されています。この管弦楽版の録音もいくつか存在します。また、シェーンベルクは自身で4手ピアノ版も作成しました。

シェーンベルクの弟子たちもこの作品に触発され、編曲を手がけています。アルバン・ベルクは1913年から1915年にかけて2台ピアノ用に編曲を、アントン・ヴェーベルンは1922年にフルート、クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、ピアノのための室内五重奏版を制作しました。これらの編曲版も、それぞれ録音が存在しています。

さらに、ウニヴェルザール出版社の出版譜としては、エドゥアルト・シュトイアーマンによるピアノ独奏用編曲や、フェリックス・グライスレによる4手ピアノ用編曲なども知られており、オリジナル版を含め、多様な形態でこの作品が演奏・研究されています。

室内交響曲第1番は、シェーンベルクが後期ロマン派から無調へと至る過渡期に作曲された重要な作品であり、編成、形式、響きのどれをとっても、20世紀音楽の新しい可能性を示唆するものとして、その後の音楽史に大きな影響を与えました。

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