富士自動車
富士自動車株式会社は、激動の昭和時代に存在した日本の製造業企業です。そのルーツは、大正期に東京で創業し、輸入自動車の木製車体を制作していた木工所「日造木工」に遡ります。戦時中には軍用木製品を手掛け、1943年に日造木工所と改称。終戦に伴い、戦災で被災した工場を世田谷へ移転し、洋家具などの製造も手掛けました。
戦後の経済混乱期、日造木工所は戦後経済統制策に基づき、商工省の指定する日産自動車の指定工場となります。翌1948年には日産自動車の社長であった山本惣治が経営に参画し、社名を富士自動車株式会社に改めました。山本氏は日産自動車の設立に関わり、満洲自動車社長なども歴任しましたが、公職追放後に富士自動車を設立し、その社長となった人物です。
新たな富士自動車が活路を見出したのは、連合国軍総司令部（GHQ）側からの要請を受けた、占領軍車両の修理再生事業でした。主要なスクラップヤードが横須賀市の旧海軍航空隊追浜飛行場跡地に設けられており、激戦地から多数の損傷車両が運び込まれていました。富士自動車はこの地に工場を構え、米軍車両の修理・解体・再生を請け負います。1948年に始まったこの事業は当初大変好調で、町工場同然だった企業はわずか数年で従業員約1万名を抱える一大企業へと急成長を遂げました。1958年までに再生した米軍車両は累計22万9,100台に及びます。
1950年に勃発した朝鮮戦争は、損傷車両の流入を増加させ、修理事業の最盛期をもたらしました。事業は拡大し、1952年には東京証券取引所に株式を上場。しかし、占領軍事業の先行きを懸念し、翌年にはクライスラーとの技術提携による乗用車生産事業への参入を電撃的に発表。排気量3500ccの大型乗用車プリムスのノックダウン生産を開始し、初年度180台、翌年288台を生産しました。しかし、当時の通商産業省は大型乗用車の国産化に消極的で、必要な外貨割り当てが得られなかったため、このノックダウン生産は短期間で中止に追い込まれました。
1953年、長い歴史を持つ東京瓦斯電気工業株式会社（瓦斯電）を吸収合併し、そのブランドと技術を受け継ぎます。瓦斯電は明治時代に創業し、戦前には航空機エンジンや軍用車両を手掛けた名門でしたが、当時は経営難に陥っていました。この合併により、富士自動車は瓦斯電が戦後に手掛けていた小型バイク用エンジンなどの技術を獲得します。
瓦斯電のエンジン技術などを活用し、富士自動車は再び自社製自動車の製造を試みます。1955年には、瓦斯電のエンジンを搭載した斬新な設計の三輪自動車「フジキャビン」を発表。特に、木工技術で培われたノウハウを活かした、当時としては極めて珍しいFRP樹脂製ボディを採用した点は画期的でした。しかし、生産体制や販売網の構築に問題を抱え、わずか2年間で85台程度の生産にとどまり、事業としては成功しませんでした。
同じ1955年には、米軍修理事業の縮小に伴う追浜工場での人員削減策が発表されると、大規模な労働争議に発展。この争議は国会でも取り上げられるほど深刻化し、1960年まで長期間にわたり社内の混乱を招きました。結局、追浜工場はこの争議の末に閉鎖され、跡地は日産自動車が取得。現在の日産追浜工場として活用されています。また、1955年には旧日造木工所系の世田谷工場が、家具製造部門とともに同名の富士自動車株式会社として別会社に分離設立され、洋家具製造などを継続しました。家具製造部門は後に廃止されましたが、この会社は現在も株式会社イマックスとして、旧工場跡地に建設されたビル管理などの不動産賃貸業として存続しています。
度重なる事業失敗と労働争議による疲弊は、自動車製造部門に大きな打撃を与えました。1961年には、工業デザイナー柳宗理の事務所がデザインしたユニークな卵形のスタイルを持つ軽四輪車「ガスデンミニバン」を発表。瓦斯電由来のエンジンを搭載した意欲作でしたが、当時の富士自動車にこれを量産する余力はもはやなく、発表されたものの生産には至りませんでした。さらに、ミニバン発表直後には社長の山本惣治が急逝するという事態に見舞われます。
指導者を失い経営危機に瀕した富士自動車は、1962年に株式会社小松製作所（現コマツ）との業務提携に踏み切り、建設機械であるバックホーや農林業機械であるエンジン刈払機などの生産によって再建を目指しました。その後、社名をゼノア株式会社、次いで小松部品を合併して小松ゼノア株式会社と改称しながらコマツとの連携を深め、事業の中心は建設機械や農林業機械へと移っていきました。2002年には株式交換によりコマツの完全子会社となって上場廃止となります。
コマツグループの一員として事業を継続していましたが、2007年に組織再編が行われます。農林機器部門は株式会社ゼノアとして分社され、スウェーデンのハスクバーナ社に売却されてコマツグループを離脱。残りの産業機械や航空機部品部門などは小松フォークリフトと合併し、コマツユーティリティ株式会社となりました。これにより、かつて富士自動車として存在した法人格は、その歴史に幕を下ろしました。主な製品としては、試作・少量生産にとどまったものの、フジキャビン（1956-1957年）やガスデンミニバン（未発売）などがあります。
戦後の経済混乱期、日造木工所は戦後経済統制策に基づき、商工省の指定する日産自動車の指定工場となります。翌1948年には日産自動車の社長であった山本惣治が経営に参画し、社名を富士自動車株式会社に改めました。山本氏は日産自動車の設立に関わり、満洲自動車社長なども歴任しましたが、公職追放後に富士自動車を設立し、その社長となった人物です。
新たな富士自動車が活路を見出したのは、連合国軍総司令部（GHQ）側からの要請を受けた、占領軍車両の修理再生事業でした。主要なスクラップヤードが横須賀市の旧海軍航空隊追浜飛行場跡地に設けられており、激戦地から多数の損傷車両が運び込まれていました。富士自動車はこの地に工場を構え、米軍車両の修理・解体・再生を請け負います。1948年に始まったこの事業は当初大変好調で、町工場同然だった企業はわずか数年で従業員約1万名を抱える一大企業へと急成長を遂げました。1958年までに再生した米軍車両は累計22万9,100台に及びます。
1950年に勃発した朝鮮戦争は、損傷車両の流入を増加させ、修理事業の最盛期をもたらしました。事業は拡大し、1952年には東京証券取引所に株式を上場。しかし、占領軍事業の先行きを懸念し、翌年にはクライスラーとの技術提携による乗用車生産事業への参入を電撃的に発表。排気量3500ccの大型乗用車プリムスのノックダウン生産を開始し、初年度180台、翌年288台を生産しました。しかし、当時の通商産業省は大型乗用車の国産化に消極的で、必要な外貨割り当てが得られなかったため、このノックダウン生産は短期間で中止に追い込まれました。
1953年、長い歴史を持つ東京瓦斯電気工業株式会社（瓦斯電）を吸収合併し、そのブランドと技術を受け継ぎます。瓦斯電は明治時代に創業し、戦前には航空機エンジンや軍用車両を手掛けた名門でしたが、当時は経営難に陥っていました。この合併により、富士自動車は瓦斯電が戦後に手掛けていた小型バイク用エンジンなどの技術を獲得します。
瓦斯電のエンジン技術などを活用し、富士自動車は再び自社製自動車の製造を試みます。1955年には、瓦斯電のエンジンを搭載した斬新な設計の三輪自動車「フジキャビン」を発表。特に、木工技術で培われたノウハウを活かした、当時としては極めて珍しいFRP樹脂製ボディを採用した点は画期的でした。しかし、生産体制や販売網の構築に問題を抱え、わずか2年間で85台程度の生産にとどまり、事業としては成功しませんでした。
同じ1955年には、米軍修理事業の縮小に伴う追浜工場での人員削減策が発表されると、大規模な労働争議に発展。この争議は国会でも取り上げられるほど深刻化し、1960年まで長期間にわたり社内の混乱を招きました。結局、追浜工場はこの争議の末に閉鎖され、跡地は日産自動車が取得。現在の日産追浜工場として活用されています。また、1955年には旧日造木工所系の世田谷工場が、家具製造部門とともに同名の富士自動車株式会社として別会社に分離設立され、洋家具製造などを継続しました。家具製造部門は後に廃止されましたが、この会社は現在も株式会社イマックスとして、旧工場跡地に建設されたビル管理などの不動産賃貸業として存続しています。
度重なる事業失敗と労働争議による疲弊は、自動車製造部門に大きな打撃を与えました。1961年には、工業デザイナー柳宗理の事務所がデザインしたユニークな卵形のスタイルを持つ軽四輪車「ガスデンミニバン」を発表。瓦斯電由来のエンジンを搭載した意欲作でしたが、当時の富士自動車にこれを量産する余力はもはやなく、発表されたものの生産には至りませんでした。さらに、ミニバン発表直後には社長の山本惣治が急逝するという事態に見舞われます。
指導者を失い経営危機に瀕した富士自動車は、1962年に株式会社小松製作所（現コマツ）との業務提携に踏み切り、建設機械であるバックホーや農林業機械であるエンジン刈払機などの生産によって再建を目指しました。その後、社名をゼノア株式会社、次いで小松部品を合併して小松ゼノア株式会社と改称しながらコマツとの連携を深め、事業の中心は建設機械や農林業機械へと移っていきました。2002年には株式交換によりコマツの完全子会社となって上場廃止となります。
コマツグループの一員として事業を継続していましたが、2007年に組織再編が行われます。農林機器部門は株式会社ゼノアとして分社され、スウェーデンのハスクバーナ社に売却されてコマツグループを離脱。残りの産業機械や航空機部品部門などは小松フォークリフトと合併し、コマツユーティリティ株式会社となりました。これにより、かつて富士自動車として存在した法人格は、その歴史に幕を下ろしました。主な製品としては、試作・少量生産にとどまったものの、フジキャビン（1956-1957年）やガスデンミニバン（未発売）などがあります。
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