富士谷成章:江戸時代中期の国学者、日本語学への貢献
富士谷成章(ふじたに なりあきら、
1738年-
1779年)は、
江戸時代中期に活躍した
国学者です。
京都に生まれ、幼少期からその才能を発揮しました。名は成章、
通称を専右衛門、
字を仲達、号を咸章、北辺と称しました。
生涯
成章は、
国学者
皆川淇園を
兄に持つ皆川成慶の子として生まれました。幼い頃から優れた才能を示し、
漢学は
兄である淇園に師事しました。その後、
国学に転向しましたが、
漢学への深い理解は生涯を通じて維持され、漢
学者との交流も盛んに行っていました。さらに、
和歌においても才能に秀で、有栖川宮職仁親王に師事しました。
宝暦7年(
1757年)、
柳河藩京都留守居富士谷家の養子となり、富士谷家を継承しました。その才能は
和歌にも発揮され、歌集『北辺成章家集』や詩集『吟候社詩稿』を著しました。中でも、
和歌の変遷をまとめた『六運略図』や『北辺七体七百首』は、没後、
本居宣長から高く評価されたと言われています。安永8年(
1779年)、42歳でこの世を去り、上品蓮台寺に葬られました。
昭和3年(
1928年)には
正五位を追贈されています。
業績:日本語の品詞分類
成章の最も大きな功績は、国語
学者としての活動にあります。彼は、日本語の
品詞分類において独自の体系を確立しました。成章は言葉を
人体に見立て、意味や機能に基づいて4つの
品詞に分類しました。それは、「名」(
名詞)、「装」(
動詞・
形容詞などの用言)、「挿頭」(
副詞・接続詞・感
動詞)、「脚結」(助
動詞・
助詞)です。この分類には
漢学の影響も指摘されていますが、成章独自の視点も強く反映されています。
代表的な著作
成章の
学問的成果は、『挿頭抄』(かざししょう、
1769年)と『脚結抄』(あゆひしょう、
1779年)という2つの重要な著作に結実しました。
『挿頭抄』: 3巻からなるこの書物は、「挿頭」つまり副詞・接続詞・感動詞を重点的に解説しています。各語の語義や用法を詳しく説明し、俗語訳と歌の例(証歌)を挙げて理解を深める工夫が凝らされています。五十音順に単語が配列されており、歌語辞典としての性格も持ち合わせています。
『脚結抄』: 5巻6冊からなる大部の書物で、「脚結」つまり助
動詞・
助詞を詳細に解説しています。単語は意味、接続、活用の有無などから「属」「家」「倫」「身」「隊」の5つのカテゴリーに分類され、体系的に配列されています。巻頭には、用言の分類と活用体系、そして本居春庭『詞八衢』に先立つ活用表「装図」が掲載されています。
これらの著作は、
文法研究における画期的な成果であり、
明治時代以降の
山田孝雄など多くの国語
学者に大きな影響を与えました。
成章の学問とその後
成章の
学問は、長男の富士谷御杖によって継承されました。彼の研究は、近世国語学の発展に大きく貢献し、現代の日本語研究にも繋がる重要な足跡を残しています。彼の著作は、後世の研究者によって再評価され、今日でも研究対象として注目を集めています。
参考文献
田尻佐 編『贈位諸賢伝』(増補版・上)近藤出版社、1975年
古田東朔『日本語学概論』(改訂版)財団法人放送大学教育振興会、1994年
遠藤佳那子「富士谷成章」『日本語学』第35巻第4号、明治書院、2016年
竹岡正夫『富士谷成章の学説についての研究』風間書房、1971年
足立巻一『やちまた』
遠藤佳那子『近世後期テニヲハ論の展開と活用研究』
勉誠出版、2019年
* その他多数