富家語

『富家語』（ふけご）、別名『富家語談』は、平安時代後期を代表する関白、藤原忠実（1078-1162）の言動を記録した語録です。筆者は高階仲行とされています。

藤原忠実は、保元の乱に連座し、知足院（現在の京都市上京区）に幽閉されるなど、激動の時代を経験しました。本書はそのような晩年の忠実の言葉や行動を、258という短い記事に分けて伝えています。記事は、久安7年（1151年）から応保元年（1161年）までの出来事を扱っていると考えられており、忠実の経験や見解、そして当時の宮廷社会の情景が克明に記されています。

『富家語』の特徴として、有職故実や公事に関する記述が多い点が挙げられます。有職故実とは、宮廷における伝統的な儀式や作法、慣習のことです。公事は、朝廷や公家の業務を指します。『富家語』は、これらの有職故実や公事にまつわるエピソードを数多く収録しており、平安時代後期の宮廷社会の実態を理解する上で貴重な情報源となっています。また、同時代の記録である『中外抄』と重複する部分も見られますが、『中外抄』とは異なり、各記事に具体的な日付は記されていません。

『富家語』は、後世の説話集にも大きな影響を与えました。その簡潔で印象的な記述は、多くの説話に題材を提供し、平安時代の歴史や文化を伝える上で重要な役割を果たしています。歴史研究においても、『富家語』は、平安時代後期の政治や社会、文化を理解するための重要な史料として位置づけられています。特に、院政期という権力構造が複雑化した時代の政治や社会の実態を垣間見ることができる点で、その価値は非常に高いと言えます。

現在では、『江談抄　中外抄　富家語』として、岩波書店「新日本古典文学大系」に収録され、広く研究者や一般読者の手に届くようになっています。これらの古典籍を通して、平安時代後期の日本社会を多角的に理解することができるのです。

まとめると、『富家語』は、藤原忠実の晩年の言葉と行動を記録した貴重な語録であり、平安時代後期の宮廷社会、政治、文化を理解する上で欠かせない史料です。有職故実や公事を中心とした内容、そして『中外抄』との関連性など、様々な角度から研究が続けられています。その簡潔で印象的な文章は、現代の私たちにも、当時の社会情勢や人々の生き様を伝えてくれます。

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