富本豊前太夫

富本豊前太夫（とみもと ぶぜんだゆう）

富本豊前太夫とは、富本節の太夫における名跡であり、代々家元がこの名を継承しています。初代は「豊前太夫」を名乗らなかったものの、その息子が二代目を名乗ったことから、初代豊前掾が名跡の創始として数えられています。

各代の豊前太夫

初代 富本豊前掾

享保元年（1716年）に生まれ、明和元年（1764年）に没しました。本名は福田弾司。宮古路豊後掾の門下に入り、宮古路品太夫、宮古路小文字太夫と改名。1747年に初代常磐津文字太夫が常磐津節を創設すると、初代常磐津小文字太夫として脇を支えました。1748年に独立し、富本豊志太夫と名乗り富本節を創始。1749年に受領し「富本豊前掾藤原敬親」となりました。1752年には中村座に出勤し、江戸三座にも出演。1760年に再び受領し、筑前掾となっています。

二代目

宝暦4年（1754年）に江戸で生まれ、文政5年（1822年）に没しました。初代豊前掾の実子であり、初名は富本午之助。幼くして父と死別し、1766年に中村座で初舞台を踏みます。1770年に父の名である二代目豊志太夫を襲名。1777年1月には二代目豊前太夫を襲名しました。1817年10月には受領し「富本豊前掾藤原敬政」となっています。「馬づら豊前」と呼ばれるほどの面長な顔立ちで、美声の持ち主として人気を博しました。

三代目

文化2年（1805年）に生まれ、明治9年（1876年）に没しました。幼名は善太郎。江戸日本橋人形町の鬘屋善八の息子。1819年に二代目豊前太夫の養子となり、1822年に二代目午之助として初舞台を踏みました。1828年に三代目豊前太夫を襲名。1851年に受領し「富本豊前掾藤原秀広」、さらに1852年には豊前大掾となりました。1859年に隠居し、豊珠翁と名乗りました。

四代目

文政13年（1830年）に生まれ、明治22年（1889年）に没しました。本名は富本保太郎。三代目豊前太夫の実子。1845年に富本豊紫太夫として中村座で初舞台を踏みました。1852年1月に四代目豊前太夫を襲名。1870年に豊洲、1875年に実子に豊前太夫の名を譲り引退しましたが、実子の五代目豊前太夫が夭折したため、1880年に復帰し六代目豊前掾を受領しました。凋落傾向にあった富本節を復興させるために尽力しました。

五代目

文久元年（1861年）に生まれ、明治22年（1880年）に夭折しました。本名は富本玉次郎。四代目豊前太夫の実子。1875年に父から名を受け継ぎ、五代目豊前太夫を襲名。襲名後には喜昇座、新富座に出演し、「三社祭礼巴提灯」で評判を呼びました。久松座（後の明治座）にも出演し、将来を嘱望されましたが夭折。彼の死後、富本節はさらに衰退の一途を辿りました。

六代目

六代目は四代目と同一人物です。

七代目

明治23年（1890年）に生まれ、没年は不明です。本名は榎本清久。骨董商を営む父が六代目豊前太夫と縁故関係にあったため、1898年に家元を相続し富本豊志太夫を名乗りました。1909年6月に七代目豊前太夫を襲名しましたが、目立った活躍はなく没年も不詳のため、代外とされる場合もあります。兄に長唄豊後節三味線方の五代目鳥羽屋里長がいます。

八代目

安政4年（1857年）に生まれ、昭和8年（1933年）に没しました。本名は坂田らく。四代目豊前太夫（後の六代目豊前掾）の門弟で、豊鶴を経て新派を立て、初代富本都路となり、1887年に初代富本豊前を名乗りました。富本豊前を八代目として数えます。

九代目

明治18年（1885年）に生まれ、昭和27年（1952年）に没しました。本名は坂田とく。八代目の養女で、豊鶴が二代目都路から二代目富本豊前を襲名しました。二代目富本豊前を九代目として数えます。

十代目

明治29年（1896年）に生まれ、昭和45年（1970年）に没しました。本名は坂田忞。九代目の夫。三代目都路から三代目富本豊前を襲名しました。三代目富本豊前を十代目として数えます。

十一代目

1929年に生まれ、1983年に没しました。本名は石川正博。石川潭月の名で作詞家、舞踊家として活躍しました。

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