富永仲基

富永仲基：江戸時代の先駆的な哲学者

富永仲基（1715年 - 1746年）は、江戸時代の大坂に生きた異色の哲学者です。彼は、儒教、仏教、神道といった既存の宗教や思想を批判的に分析し、独自の学問体系を築き上げました。その思想は、合理主義的な視点と、歴史や文化に対する深い洞察に裏打ちされており、近代的な思想の萌芽としても評価されています。

生涯と学問の形成

富永仲基は、大坂の裕福な商家に生まれました。幼少期から懐徳堂で儒学を学びましたが、既存の学説に満足せず、独自の探求を始めます。仏教の研究にも打ち込み、黄檗宗の寺院で一切経の校合に従事する中で、仏教に対する批判的な視点を培いました。

24歳で著した『翁の文』、そして延享2年（1745年）に刊行した主著『出定後語』において、富永は独自の思想を展開しました。

『出定後語』における思想

『出定後語』は、富永仲基の思想が最もよく表れた著作です。彼は、仏教の経典、特に大乗仏教の経典が釈迦の真の教えではなく、後世に作られたものであるという「大乗非仏説」を唱えました。これは、当時の仏教界に大きな衝撃を与えました。

富永の思想で特筆すべきは、「加上」という概念です。これは、後から出てきた学説は、必ず過去に遡って起源を求めるという考え方です。彼はこの考え方を、宗教や思想の形成過程を解明するために用い、その根底に「善」があること、聖と俗を区別する根本であると主張しました。

また、富永は民族性を「くせ」という言葉で捉え、それぞれの文化の特徴を比較検討しました。インドを「幻」、中国を「文」、日本を「絞」と表現し、文化人類学的な視点から各文化の特性を分析しました。このような文化の相対化は、当時の思想としては非常に斬新なものでした。

後世への影響

富永仲基の思想は、同時代には必ずしも理解されませんでしたが、後世の思想家たちに大きな影響を与えました。本居宣長は、富永の「加上」の考え方を高く評価し、内藤湖南や村上専精といった学者も、彼の思想に注目しました。また、デイヴィッド・ヒュームやフリードリヒ・ニーチェといった西洋の思想家と比較されることもあり、その先駆的な視点が評価されています。

まとめ

富永仲基は、江戸時代という時代にあって、既存の権威や学説にとらわれず、独自の視点から宗教や文化を批判的に考察した稀有な思想家です。彼の思想は、合理主義、歴史的視点、文化相対主義といった近代的な思想の萌芽を含んでおり、現代においても学ぶべき点が多くあります。

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