出定後語

出定後語（しゅつじょうごご）

『出定後語』は、江戸時代中期の学者、富永仲基によって延享2年（1745年）に刊行された主著です。本書は、仏教経典の成立過程に関する独自の視点を提示し、当時の仏教界に大きな影響を与えました。

概略

本書の中心となる主張は、「加上（かじょう）」または「異部加上（いぶかじょう）」と呼ばれる法則の提唱です。富永仲基は、経典を歴史的に分析することで、新しい経典は古い経典の教説に異なる教説を付け加える形で発展してきたと主張しました。これは、既存の仏教経典の体系整理とは根本的に異なる考え方でした。

従来の仏教経典研究では、すべての経典は釈迦によって説かれたものであり、矛盾がないように解釈されるべきであるという前提がありました。しかし、仲基は、その前提を疑い、経典の成立史を再構築しようと試みました。その根拠として、彼は「加上」の他に、「異部名字難必和會（いぶみょうじあいかならずわかいしがたし）」、「三物五類立言之紀（さんもつごるいりつげんのき）」という概念を提示しています。

加上：新たな思想は、旧来の思想に新たな要素を加え、自らの優位性を示そうとする心理的な法則性。
異部名字難必和會：ある事柄に対して複数の説が存在する場合、真実を判断することが難しく、無理に判断すると誤る可能性がある。
三物五類立言之紀：言語の意味は、話者の主観やイデオロギー、時代の変化（発音、意味、翻訳）、意味の変化の5種類（固有名詞の一般名詞化、意味の強化、誇張、意味の変化、逆の意味への変化）によって影響を受ける。

また、仲基は韻文や注釈文などの記述スタイルから経典の編集順序を推定したり、国民性による発想の違い（インド人は空想的・宇宙的、中国人は文飾的、日本人は要点簡潔）を比較したりしています。

仲基は、ヴェーダが最初に存在し、それに対抗して六師外道が現れ、さらにそれに対抗して釈迦・小乗仏教が生まれ、最終的に大乗仏教が加上されたと主張しました。彼は、大乗仏教を後世に作られたもの（大乗非仏説）と断定したため、仏教界から激しい批判を受けました。しかし、平田篤胤のような国学者からは、その学問的視点が高く評価されました。

参考文献

『現代仏教名著全集 第1巻 (仏教の諸問題)』中村元・増谷文雄・J.M.北川 編、隆文館 1971
『日本の名著 18　冨永仲基・石田梅岩』中央公論社 1972 (石田瑞麿訳)
『日本思想大系 43 富永仲基・山片蟠桃』岩波書店 1973 (水田紀久校注)
『出定後語　現代仏教名著全集』隆文館 普及版1982

関連項目

大乗非仏説
村上専精
聞一多
加上説

外部リンク

『大阪の町人學者富永仲基』：旧字旧仮名 - 青空文庫

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