尋常小学読本唱歌

尋常小学読本唱歌について

『尋常小学読本唱歌』は、1910年7月14日、当時の文部省によって初めて編纂された日本の唱歌教科書です。この教科書は、小学校における音楽教育の一環として、重要な役割を果たしました。当初は、国語読本となる『尋常小学読本』に収録されていた韻文教材27首を基に、曲が付けられたもので、いわば暫定的な教材として位置づけられていました。

教科書の背景と特徴

『尋常小学読本唱歌』には全27曲が収められています。この教材は、後に発行される『尋常小学唱歌』（全120曲）への橋渡し的な役割を担っており、学年ごとの分冊形式ではなく、すべての曲が一つの本にまとめられています。この特徴は、当時の教育システムにおける新しい試みの一環といえるでしょう。

特筆すべき点は、すべての曲が日本人の作曲によるものであることです。この点において、『尋常小学読本唱歌』は他の同時代の教科書とは一線を画しています。曲は、文部省が東京音楽学校に依頼して編纂された委員会のもとで共同作曲されました。これにより、個々の作詞者や作曲者の名前は公表されず、全ての著作権は文部省が所有することとなりました。

歴史的継承

収録されている全曲は、『尋常小学読本唱歌』とともに文部省が編纂した後の『尋常小学唱歌』に再録され、さまざまな教育課程の変遷においても引き続き取り上げられました。1932年（昭和7年）の『新訂尋常小学唱歌』や、1941年の国民学校期に編纂された芸能科音楽教科書にも、これらの唱歌は収録されています。さらに、戦後の検定教科書にも連続して影響を与え、約100年が経過した現在においても多くの曲が歌い継がれています。

主な作詞者と作曲者

『尋常小学読本唱歌』に収録された曲の中には、著名な作詞者や作曲者が関わっています。主な作詞者には、芳賀矢一、高野辰之、佐佐木信綱といった文学者が名を連ねています。一方で、主な作曲者としては、上真行、小山作之助、島崎赤太郎、楠美恩三郎、岡野貞一、南能衛などの名が挙げられます。これらの作詞者や作曲者が協力して生み出した作品群は、今なお多くの人々によって演奏されています。

まとめ

『尋常小学読本唱歌』は、1910年に登場した日本の唱歌教育に大きな影響を与えた教科書です。全曲が日本人による創作で構成され、現在でも多くの学校や家庭で歌われている点がその価値を示しています。教育の歴史の中で、この教科書が果たした役割は計り知れません。多くの世代にわたって歌い継がれる楽曲たちは、今後も日本の音楽教育に大きな影響を与え続けることでしょう。

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