小山田虎満

小山田 虎満

戦国時代の甲斐国を代表する武将、武田氏の家臣として活躍した小山田虎満（おやまだ とらみつ）。彼は小山田昌辰（まさたつ）、あるいは出家して玄怡（げんい）とも称されましたが、同時代に残された文書からは「虎満」という実名が多く確認されています。また、生涯を通じて上原伊賀守、後に小山田備中守といった受領名を名乗ったことも知られています。

彼の出自は、甲斐国において郡内地方を治めた小山田氏とは系統が異なる石田小山田氏です。甲府市石田の地に所領を持っていたことから、この地名を冠して小山田姓を名乗り、「石田の小山田」と称されました。父もまた小山田備中守と称し、この受領名は代々世襲されていたと考えられています。この父とされる人物は、天文9年（1540年）の海津城攻めに板垣信方らと共に城代として加わり、村上義清の反撃を退ける功を挙げたとされますが、天文21年（1552年）の信濃地蔵峠の戦いで戦死したとする見方があります。

虎満の初期の活動における名乗りは上原伊賀守でした。当初は70騎を率いていたと伝わります。この上原伊賀守と後の小山田備中守（虎満）が同一人物であることは、近年の研究によって明らかになりました。研究者によっては、備中守家の系譜を父（古備中）―虎満（上原伊賀守、玄怡）―昌成の二代、あるいは父（古備中）―昌辰（上原伊賀守）―昌行の三代とするなど、見解が分かれています。

武田氏が晴信（後の信玄）の時代に信濃侵攻を本格化させる中、虎満は重要な役割を担いました。彼に関する最も古い記録は、『高白斎記』における天文15年（1546年）7月の記述で、「上原伊賀守」として佐久郡内山城（長野県佐久市）の城代に任じられたとあります。これにより、武田氏は西上野方面への入口にあたる佐久郡の要衝を確保しました。

天文17年（1548年）の佐久郡前山城攻めにおいては、虎満の指揮下にある在城衆や足軽大将が武田氏の御一門衆とされる「三郎殿」の指揮下で出陣しています。天文20年（1551年）3月には内山城代を前城主の大井貞清に譲り、一時的に甲府へ戻りましたが、同年9月には貞清が更迭され、虎満が再び内山城代に任じられています。この再任の時期に、彼は石田小山田氏の家督を継承し、小山田備中守を称するようになったと考えられています。

虎満は内山城代として、武田氏の信濃支配の拠点防衛にあたりました。天文22年（1553年）1月、信濃守護小笠原氏と村上氏の連携に対抗するため、晴信は虎満に対し、村上方への出陣を隠蔽するために戸石城を修築するという偽情報を流させるよう指示する自筆の書状を送っています。また、信濃国衆である真田幸隆（幸綱）との間を取り次ぐ役目も務め、幸隆と共に軍事行動を行うなど、武田氏の対信濃政策において重要な役割を果たしました。

天文23年（1554年）7月には、飯富虎昌と共に再び内山城に在番し、村上義清に対する抑えを務めました。永禄元年（1558年）には重篤な病に陥りましたが、幸いにも回復しました。『真下家所蔵文書』に残る年未詳の武田晴信書状には、山本勘助が「当家宿老小山田」の見舞いに向かったという記述があり、これが虎満を指すと考えられています。このことから、彼が武田家中で相当な宿老として遇されていたことがうかがえます。

永禄7年（1564年）頃には出家し、玄怡と号しました。永禄10年（1567年）2月には、嫡男である昌成（菅右衛門尉）に自身の知行地や指揮下の同心衆を譲与することが認められており、この頃に家督を譲り、隠居したと見られます。同年8月に生島足島神社へ奉納された起請文には虎満の名はなくなり、以降は息子の昌成が備中守を称するようになります。

虎満の活動が見られる最後の文書は、元亀3年（1572年）付の武田家朱印状「柏木文書」です。没年は高野山蓮華定院の過去帳によれば天正7年（1579年）10月12日とされており、その最期まで内山城代を務めていたと考えられています。

軍記物である『甲陽軍鑑』には、虎満が築城した城は決して落ちることがなく、武田信玄が新たに城を築くたびに虎満を城代として配置することを常としたという有名な逸話が記されています。これは彼の築城術や城郭防衛能力に対する高い評価を示すものと言えます。しかし、『軍鑑』や一部の記録には、彼の父や息子との混同が見られます。例えば、『軍鑑』では天文21年の信濃常田合戦で戦死したとされますが、これはその後の活動を示す文書が多数存在することから、同じ備中守を称した父に関する記述と推測されています。また、天正10年（1582年）の甲州征伐において、仁科盛信と共に高遠城で討ち死にしたとする説も誤りであり、これは息子の昌成のことであると考えられています。

虎満の子孫は後に真田家に仕え、江戸時代には松代藩で次席家老を務める家柄となりました。彼の生涯は、NHK大河ドラマ『天と地と』（1969年）で小山田備中守として描かれるなど、後世に伝えられています。

参考文献：黒田基樹氏、平山優氏らの研究成果が彼の人物像解明に大きく貢献しています。

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