小川後楽 (6代目)

6代目 小川 後楽（おがわ こうらく）

1940年4月22日に京都府京都市に生まれた小川後楽は、小川流煎茶の六代目家元として知られる煎茶家です。その活動は多岐にわたり、大学教授として教鞭を執り、日本文化論や伝統芸能史の研究者、また中国の喫茶文化史研究の第一人者としても顕著な功績を残しました。筆名としては楢林忠男（ならばやし ただお）も使用しています。

幼少期を京都で過ごし、立命館大学文学部日本史学科に進学。1963年に同大学を卒業後、奈良本辰也のもとで日本近世思想史を深く学びました。その後、京都芸術文化研究所に入所し、研究者としての道を歩み始めます。1971年、小川流煎茶の家元を継承し、伝統文化の担い手としての役割も担うことになりました。

教育者としては、京都造形芸術大学で長年にわたり教鞭を執り、教授および理事を務めました。また、関西学院大学で非常勤講師、佛教大学で客員教授として教壇に立ち、後進の育成にも力を注ぎました。専門は日本文化論と伝統芸能史であり、幅広い知識と深い洞察力を持って教えを説きました。

小川後楽の生涯において特筆すべきは、中国の喫茶文化史に関する精力的な研究です。1979年の初めての訪問以来、生涯にわたり四十回近くも中国を訪れました。陝西師範大学や雲南民族学院、北京大学などで短期留学も経験し、中国各地の名茶や喫茶文化・歴史に関する現地調査を重ねました。喫茶文化のルーツへの強い探究心から、中国喫茶史に深い造詣を持ち、その研究成果は日中の喫茶史をテーマとした数々の発表として、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、講演などで広く紹介されました。

また、研究活動は喫茶文化にとどまらず、日本庭園における煎茶の要素にも向けられました。京都造形芸術大学内の日本庭園研究センター代表である尼崎博正氏らと共に、近代庭園の空間特性に見られる煎茶的な要素に関する研究を進め、現地調査を重ねました。その成果は、2005年に同センターから発表された論文「近代庭園の空間特質に見られる煎茶的要素に関する研究」の中の「煎茶文化と煎茶的要素」として発表されています。

著書も多く、煎茶に関する入門書や文化史、道具に関するものから、喫茶文化の精神に迫るものまで多岐にわたります。小川後楽名義の主な著作には、『煎茶入門』（保育社）、『茶の文化史 喫茶趣味の流れ』（文一総合出版）、『煎茶を学ぶ』（角川書店）、『茶の精神(こころ)をたずねて』（平凡社）、そして没後に出版された『漱石と煎茶』（平凡社新書）などがあります。また、楢林忠男名義では、『日本の茶書』の共編訳（平凡社東洋文庫）や、『文人への照射』（淡交社）、『煎茶の世界』（徳間書店）といった著作があり、幅広い視点から日本の文化や喫茶文化を論じました。

教育、研究、そして伝統文化の継承という多方面で活躍した小川後楽は、2016年9月19日、肺がんのため76歳でこの世を去りました。その功績は、煎茶道の発展のみならず、日中の文化交流や日本文化研究にも大きな影響を与えました。

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