小笠原長親

小笠原 長親

小笠原 長親（おがさわら ながちか）は、戦国の終わりから江戸時代初期にかけての武将であり、石見国に根差した国人領主であった石見小笠原家の第16代当主です。父は同家の一員である小笠原元枝。長親という名は、石見小笠原家の祖とされる人物と同名です。

生年は天正3年（1575年）または天正6年（1578年）と伝えられており、父元枝の次男として生まれました。兄の元長が若くして亡くなったため、長親が嫡子となります。

当時の石見小笠原家の当主であった長親の伯父・小笠原長旌には男子がなく、娘の千代姫が一人いるのみでした。このため、長旌の後継者として長親が千代姫の婿となり、父元枝が後見人となることが定められました。ただし、将来もし長旌に実子が誕生した場合には、その実子を優先して家督を継がせるという条件が付されていました。

天正19年（1591年）、伯父長旌に待望の実子である千代童丸が誕生します。事前の取り決めに従い、千代童丸が正式な後継者と定められました。これに伴い、父元枝は引き続き石見小笠原家中の裁判を取り仕切り、長親は家中の名代や当時の主家である毛利氏の拠点の一つであった広島での勤めを担当することになりました。しかし、千代童丸は翌天正20年（1592年）4月3日に早世してしまいます。これにより、再び長親が石見小笠原家の後継者となりました。

千代童丸の死からわずか2週間後の天正20年（1592年）4月17日、石見小笠原家は毛利輝元から出雲国神門郡神西への移封を命じられ、代々本拠としてきた石見の地を離れることになります。さらに、この移封と同じくして始まる文禄・慶長の役では、長親は吉川広家に従い、家臣の井上豊前とともに朝鮮へと渡海しました。

慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いの結果、毛利氏は大きく領地を減らされ、防長二ヶ国（現在の山口県）のみとなりました。この減封に伴い、長親は毛利氏を離れることを選び、新たに石見国津和野藩主となった坂崎直盛（宇喜多詮家）に仕官しました。長親が毛利氏を離れた具体的な理由は史料からははっきりしませんが、毛利氏の減封に伴う家臣の減知に不満を抱き、自家の維持のために他大名への仕官を選んだ可能性も指摘されています。

元和2年（1616年）、仕えていた坂崎直盛が江戸で千姫事件に関わる反乱未遂事件を起こし、坂崎氏は改易となります。幕府から派遣された上使である柳生宗矩、小笠原長房、駒井親直が津和野城の接収に訪れましたが、坂崎家の旧臣たちはこれに反発し、籠城の構えを見せました。この時、長親も籠城への参加を求められましたが、長親はこれを断ります。彼は既に毛利家への帰参を望んでおり、また徳川幕府に反逆する行動には加担できないと考えていたためです。

長親のこの決断を知った柳生宗矩らは、翌元和3年（1617年）8月22日、長親の行動を賞賛し、連署した奉書と槍を与え、徳川家へ仕えるよう勧めました。しかし、長親はこの誘いを断り、初志を貫いて毛利氏への帰参を果たします。その後は毛利秀就、そしてその子である毛利綱広の二代にわたり仕えました。

明暦2年（1656年）4月8日に死去。享年は82歳または79歳とされています。家督については、既に長男の就長が長親とは別に知行を得ていたため、長親に支給されていた御養扶持（隠居後の生活費に相当する知行）は次男の長之が継承しました。生涯を通じて、主家の転変や自身の仕官先を変えるなど、戦国末期から江戸初期にかけての動乱期を生き抜いた武将でした。

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