尾上菊五郎 (8代目)

八代目尾上菊五郎は、音羽屋に連なる日本の歌舞伎役者です。本名を寺嶋和康といい、1977年8月1日に東京都で誕生しました。定紋は重ね扇に抱き柏、替紋には四つ輪を用いています。父は七代目尾上菊五郎、母は女優の富司純子、姉は女優の寺島しのぶという、日本の芸能界を代表する一家に生まれ育ちました。

歌舞伎の世界への第一歩は早く、1984年2月、7歳の時に歌舞伎座での『絵本牛若丸』で牛若丸を演じ、六代目尾上丑之助として初舞台を踏みました。その後、松濤幼稚園から青山学院初等部、中等部、高等部を経て青山学院大学文学部へ進学しましたが、大学は中途退学しています。1996年5月には、歌舞伎座において『弁天娘女男白浪』の弁天小僧などの役で五代目尾上菊之助を襲名しました。

菊之助（当時）は、その可憐な容姿と清潔感あふれる雰囲気で、女方としても二枚目といった立役としても観客を魅了しました。特に、2000年の歌舞伎座公演『源氏物語』で紫の上を演じたことで一躍人気を博し、当時の七代目市川新之助（後の十三代目市川團十郎）や二代目尾上辰之助（後の四代目尾上松緑）と共に「平成の三之助」と称され、若い世代を中心に歌舞伎人気の再燃に貢献しました。

歌舞伎の古典はもとより、新たな挑戦にも意欲的で、現代演劇の演出家である蜷川幸雄との交流も深かったことが知られています。蜷川作品への出演経験もあり、シェイクスピアの戯曲『十二夜』を歌舞伎として上演することを企画し、蜷川を演出に迎えた『NINAGAWA十二夜』を2005年に実現させました。この画期的な試みは再演や海外公演も成功させ、伝統芸能の新たな可能性を示しました。

映像の世界でも活躍しており、市川崑監督による2006年版映画『犬神家の一族』では、物語の鍵を握る犬神佐清役を演じ、実母である富司純子が犬神松子役を演じたことで、親子共演が実現し話題となりました。その他にも、NHK大河ドラマや連続テレビ小説、民放の連続ドラマなどで重要な役を演じ、幅広い層にその存在を知らしめています。

私生活では、2013年2月に二代目中村吉右衛門の四女・瓔子さんと結婚し、現在一男二女の父です。長男は父と同じ歌舞伎の道に進み、2019年5月には七代目尾上丑之助を襲名して初舞台を踏み、未来の音羽屋を担う存在として期待されています。

そして2025年、五代目尾上菊之助として長年活躍した彼は、ついに八代目尾上菊五郎を襲名しました。2025年4月29日には、歌舞伎座で通常非公開とされる「手打式」を『古式顔寄せ手打式』として観客を前に執り行い、長男の六代目尾上菊之助襲名と共に新たな門出を祝いました。同年5月には、歌舞伎座『團菊祭五月大歌舞伎』にて「京鹿子娘道成寺」の白拍子花子や「弁天娘女男白浪」の弁天小僧菊之助といった自身や家の芸として大切にされてきた当たり役を演じ、襲名披露を行いました。

これまでの功績は多岐にわたり、国立劇場特別賞、松竹会長賞、松尾芸能賞、読売演劇大賞杉村春子賞および優秀男優賞、朝日舞台芸術賞寺山修司賞、芸術選奨新人賞および文部科学大臣賞など、数々の賞を受賞しています。また、2005年には国の重要無形文化財の保持者（総合認定）にも認定されています。

八代目尾上菊五郎として、彼はこれからも古典の伝承はもとより、『風の谷のナウシカ』や『ファイナルファンタジーX』などの新作歌舞伎に主演するなど、伝統と革新を融合させ、歌舞伎の更なる発展に貢献していくことでしょう。歌舞伎界を牽引する存在として、今後の活躍が期待される役者です。

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