水野年方

水野年方（みずの としかた）は、1866年（慶応2年）に生まれ、1908年（明治41年）に43歳で亡くなった、明治時代を代表する浮世絵師、日本画家です。その画業は、浮世絵から挿絵、そして日本画へと多岐にわたり、多くの人々に影響を与えました。

生い立ちと修行時代

水野年方は、左官の棟梁である野中吉五郎の長男として生まれました。幼少の頃から絵が好きで、土を捏ねる際に漆喰に絵を描いていたそうです。その才能を見抜いた出入りの旦那の勧めにより、14歳で月岡芳年に師事し、浮世絵を学び始めました。しかし、芳年の不行跡から一旦は師を離れ、陶器画を学んだり、下絵を描いて生活を支えたりしました。その後、芳年の名声が高まるにつれて再び師事し、この頃に水野姓を名乗るようになりました。芳年は厳格な師であり、年方も涙をこぼしながらも、熱心にその教えを守り続けたと言われています。

独立と活躍

1884年には早くも武者絵でデビューし、1886年頃からは『やまと新聞』の挿絵を手がけるなど、その才能を発揮し始めました。日本青年絵画協会にも出品し、その実力が認められています。また、南画も学び、様々な画風を習得しました。1892年に芳年が亡くなると、実質的にその門下を継承し、後継者として活躍しました。『文芸倶楽部』などの多くの文学小説の挿絵を担当し、人気挿絵画家としての地位を確立。その作風は、歌川派の様式とは異なり、穏やかで気品のある独自の風俗画を打ち出しました。また、歴史人物画にも取り組み、日本美術協会や日本美術院の設立にも参加するなど、日本画家としても活躍しました。作品は宮内省の御用品にも選ばれ、様々な展覧会で受賞するなど、その才能は高く評価されました。

多様な画業と後世への影響

水野年方の活動は、出版業界の発展と深く結びついていました。口絵挿絵の評判が売れ行きを左右する時代において、どんな依頼でも断らずに作画に取り組んだと言われています。錦絵の分野では、「今様美人」のようなシリーズの他、風俗画を多く手がけ、その独自の画風は多くの人々を魅了しました。また、歴史画においても数多くの作品を残し、その卓越した描写力は高く評価されています。門下からは、鏑木清方、池田輝方、榊原蕉園など、多くの美人画家を輩出し、その影響は後世にも及んでいます。後妻である水野秀方も年方に師事し、日本画家として活躍しました。

晩年と死

水野年方は、多忙な日々を送る中で過労となり、1908年に43歳という若さで亡くなりました。死因は脳疾患とも言われています。墓所は谷中墓地にありますが、管理されず荒れ果てて無縁墓として撤去が危惧されています。一方、神田神社には弟子たちによって建立された顕彰碑があり、これは千代田区の指定文化財となっています。

水野年方は、浮世絵師から日本画家へと時代とともに変化する絵師の姿を体現した人物でした。その作品は、現在でも多くの人々に愛され、その功績は美術史に深く刻まれています。

主な作品

錦絵
「三十六佳撰」
「茶の湯日々草」
「今様美人」
「田中石松　台湾三角湧の難戦」
「佐々木盛綱備前国藤戸ノ渡ニテ平軍ヲ襲ハント漁人ニ水之浅深ヲ問フ図」
「人皇十五代（三韓征伐の図）」
「大日本帝国万々歳　成歓襲撃和軍大捷之図」
「安城渡大激戦松崎大尉勇猛」
「大日本帝国万々歳　平壌激戦大勝利図」
「平壌激戦玄武門攻撃ノ際清兵嶮ニ據テ善ク防御シ日軍頗ル苦戦ス時ニ一勇兵アリ城壁ヲ乗越遂ニ関門大勝、倚テ古今ノ大功ヲ顕ス此人ハ誰ソ三河国住人歩兵一等卒原田重吉氏則是ナリ」
「海軍将校等征清の戦略を論ずる図」
「平壌攻略我軍敵塁ヲ抜ク」
「鳳凰城陥落敵兵潰走図」
「立見少将豪膽之図」
「於威海衛附近我海陸戦隊決死七勇士先鋒上陸之図」
「清国北洋艦隊於威海衛全滅遂提督丁汝昌我海軍敵不能於官宅自殺図」
「帝国赤城艦長坂本少佐奮戦」
「鎮川地方二五名ノ日本工兵百余人ヲ撃退ク」
「三井好　都の錦」
「三越好　都の錦」
肉筆画
多数

参考資料

山田菜々子 『木版口絵総覧 --明治・大正期の文学作品を中心として』
岩切信一郎 「水野年方とその門下」
堀川浩之 「仙台の浮世絵師・熊耳耕年の“月岡芳年塾入門記”」
東京新聞　『肉筆浮世絵の華　歌川派の全貌展』
太田記念美術館編　『歌川国芳とその一門展』
藤懸静也 『増訂浮世絵』
日本浮世絵協会編　『原色浮世絵大百科事典』第2巻
吉田漱 『浮世絵の基礎知識』
吉田漱 『浮世絵の見方事典』
* 稲垣進一編 『図説浮世絵入門』

もう一度検索