屋形石の七ツ釜

屋形石の七ツ釜：自然が創り出した造形美

佐賀県唐津市の海岸線に位置する屋形石の七ツ釜は、玄武岩の柱状節理が発達した海食洞で、その景観美から国の天然記念物に指定されています。玄海国定公園内にあり、自然の雄大さを感じられる場所です。

位置と形状

七ツ釜は、唐津市中心部から北西に約6km、東松浦半島の土器崎（かわらけざき）の先端にあります。玄界灘に面した高さ約40mの断崖に、複数の洞窟が並んでいるのが特徴です。東松浦半島の北岸は、東側が砂浜の連なる地形であるのに対し、西側は細長い湾と岬が交互に現れる地形です。七ツ釜はこの西側の地形の特徴を示しており、岬の先端が玄武岩の断崖となっています。

七ツ釜の洞窟は、玄武岩が波の浸食によって削られてできた海食洞で、その数が7つあることからこの名で呼ばれます。土器崎には3つの突端があり、東側の突端の基部に7つの洞窟が並んでいます。洞窟はいずれも奥行きが50mを超え、最も深い中央の洞窟は110mにも達します。洞窟の入り口の幅と高さはそれぞれ異なり、東から西へ順に幅は約7m、約2m、約3m、約3m、約9m、約3m、約13mとなっています。南東端の洞窟は奥が貫通しており、一種の石門を形成しています。また、西側の突端付近には「眼鏡岩」と呼ばれる奇岩も見られます。

地質

七ツ釜の洞窟や周辺の岩は玄武岩でできており、溶岩が冷える際に形成される特徴的な柱状節理が発達しています。この柱状節理は、下の根元部分では直径約30cm以上のものが直立して規則正しく並んでいますが、上の部分になると直径が約20cmと細くなり、傾斜したり横倒しになったりしたものが見られます。柱状節理の方向は、噴火時の溶岩の向きを示すと考えられています。また、柱状節理だけでなく、板状節理も見られます。

七ツ釜の海食洞は、波の力（波食）だけでなく、洞窟の前に落下した岩が波に打ち付けられることによっても形成されたと考えられています。七ツ釜の断崖も海食崖であり、汀線には波食窪（ノッチ）が見られます。

東松浦半島には、約300万年前から250万年前（新第三紀終盤から第四紀初め）に噴出したアルカリ玄武岩である東松浦玄武岩類が広く分布しています。このうち、約300万年前に噴出した溶岩流が七ツ釜の玄武岩を構成しています。土器崎の付け根部分では、堆積岩からなる佐世保層群が基盤岩として存在しますが、七ツ釜付近では基盤岩がなく、玄武岩が海中から直接立ち上がっています。このことから、東松浦半島で溶岩台地を作った多数の溶岩の噴出源の一つが、七ツ釜付近にあったと考えられます。

周辺の岩と文化

土器崎には、他にも特徴的な地形があります。「象の鼻」は、海上から見ると伏せた象の鼻に見える岩です。「眼鏡岩」は、海面から岩が飛び出しており、海面に映る姿が眼鏡の形に似ていることから名付けられました。

土器崎の地名の由来には、神功皇后の三韓出兵にまつわる伝承があります。出陣の際に戦勝を祈願し、または帰陣後に無事の帰国を祝って海神を祭り、神酒をいただいた酒盃（土器）を海に投げたことが由来とされています。岬にある土器崎神社は、この伝承に関連する気長足姫尊（神功皇后）を祀っています。

また、周辺には大きな岩柱である湊の立神岩も知られています。こちらも玄武岩の断崖で、柱状節理が発達しています。七ツ釜とともに、夏季には多くの観光客が訪れる景勝地です。

ダイビング

七ツ釜付近は、上級者向けのダイビングスポットとしても知られています。また、七ツ釜の海はフリーダイバーのジャック・マイヨールゆかりの地でもあります。マイヨールは幼少期に家族と共に毎夏のように来日し、虹の松原近くの海で潜ることを覚えました。七ツ釜でイルカと出会ったことがきっかけで、イルカの調教を経て、イルカのような潜水法を追求するようになったと言われています。

観光とアクセス

七ツ釜の海域は波が荒いことが多いですが、満潮時で波が静かな時には小舟で洞窟内に入ることができます。呼子港からは観光船「イカ丸」が出ており、洞窟内を遊覧することができます。また、土器崎の付け根の海岸からも船が出ています。かつては、唐津市街からも定期遊覧船が運航していました。

七ツ釜の海食洞は、かつては陸から見ることができず、海から船で見るしかありませんでしたが、現在は展望所や遊歩道が整備され、上から見下ろすことができるようになりました。遊歩道は起伏があり、階段が点在しています。天気の良い日には、展望所から遠く壱岐や対馬を望むことができます。

七ツ釜の上部は草原になっており、七ツ釜園地として整備されています。園内にはトイレや駐車場があります。この施設は、1969年に佐賀県が整備し、現在は唐津市が管理しています。

唐津市街地から車で約30分、公共交通機関では唐津大手口バスセンターから七ツ釜入口バス停まで約35分、そこから徒歩約30分でアクセスできます。

七ツ釜は、その独特な景観と地質学的価値から、多くの人々を魅了し続けています。ぜひ一度訪れて、自然の造形美を堪能してください。

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