山下りん

山下りん（本名：山下里舞、1857年6月16日 - 1939年1月26日）は、日本の画家であり、日本人初のイコン画家として知られています。また、日本における初期の女性洋[[画家]]の一人でもあります。茨城県笠間市出身で、正教徒としてイリナという聖名を持ち、イリナ山下りんとも呼ばれることがあります。

生涯

1873年、山下りんは東京に出て、浮世絵師の豊原国周に師事しました。その後、洋画を中丸精十郎に学び、1877年には工部美術学校に入学し、アントニオ・フォンタネージの指導を受けました。同窓生の山室政子の影響で正教会に改宗しました。しかし、1880年に工部美術学校を退学します。

同年、山室の代役として教会から派遣され、聖像画家としての修行のためロシアのサンクトペテルブルクへ留学しました。そこでビザンチン式のイコン技法を学びましたが、山下自身はこれを好まず、日記には「イコンはおばけ絵」「イタリア画（ラファエロのような絵）が描きたい」と記しています。修道院でイコン製作技術を学びましたが、当初5年の滞在予定だったところ、2年で帰国しました。

帰国後は、東京神田駿河台にあった日本正教会の女子神学校にアトリエを構え、外界との接触を絶ってイコン制作に没頭しました。1891年に竣工したニコライ堂にもイコンを描きましたが、関東大震災で焼失しました。山下は主に、関東地方や東北・北海道を中心に300点以上のイコンを制作しました。彼女の作風には、ロシア留学時代に支持されていた西欧カトリックの宗教画の影響が強く、模写したロシア・イコンを通じて、ギュスターヴ・ドレの聖画集を間接的に模写していたことが指摘されています。

山下のイコンは全て模写であり、無署名です。この点は正教のイコンの原則を忠実に守っています。ロシア留学後も、留学経験を誇示することはなく、機関紙『正教時報』に留学体験を語ることもありませんでした。また、肖像写真でも土産のワンピースを着ることはなく、粗末な木綿の着物で写り、教会内で自己主張をすることもなく、ただひたすらイコン制作に専念しました。当時の女子神学生の証言によると、彼女は周囲と全く交流せず、浴室でたまに見かける程度で、アトリエを見た者もいなかったといいます。

ロシア革命後、正教が衰退したため、1918年、61歳で故郷の笠間に戻りました。晩年は白内障のため、絵筆を執ることはありませんでした。1939年に81歳で亡くなり、墓は笠間の光照寺にあります。

留学先

山下りんが留学した修道院は長らく不明でしたが、1979年に川又一英によって特定されました。その場所は、サンクトペテルブルクの南5キロメートル、ザバルスカン大通りに面したノヴォデーヴィチ女子修道院でした。エルミタージュ美術館へも馬車で通っていた時期があったそうです。修道院はロシア革命や第二次世界大戦を経て荒廃しましたが、ソ連崩壊後に徐々に再建されています。

派生作品

山下りんをモデルとした映画『イコン伝説 追憶のエルミタージュ』（1992年）が制作されました。監督は石侍露堂、山下りん役は伊地知聖子が演じました。

参考文献

中野京子『名画で読み解く ロマノフ家 12の物語』光文社、2014年。
K「正敎會記事 聖像畫家山下媼永眠」『正教時報』第28巻第3号、正教時報社、1939年。

関連文献

大下智一『山下りん─明治を生きたイコン画家』北海道新聞社、2004年。
小田秀夫『山下りん─信仰と聖像画に捧げた生涯』筑波書林、1980年。
川又一英『われら生涯の決意―大主教ニコライと山下りん』新潮社、1981年。
川又一英『ニコライの塔─大主教ニコライと聖像画家山下りん』中央公論社、1992年。
高橋文彦『魂のイコン 山下りん』原書房、1995年。
若桑みどり『女性画家列伝』岩波書店、1985年。

関連項目

アンドレイ・ルブリョフ
河野通勢
牧島如鳩
佐々木巌

外部リンク

山下りん研究会
日本ハリストス正教会・山下りんイコン所蔵教会一覧
* 白凛居　山下りん記念館

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