山戎

山戎：春秋時代の北方の遊牧民

山戎は、中国春秋時代に現在の遼寧省西北部から河北省東北部に居住していた遊牧民族です。その歴史は古く、夏王朝以前から獫狁、葷粥とともに中国北方に存在したという説もありますが、詳細は不明です。春秋時代には燕の北部に位置し、東胡と隣接して生活していました。

歴史記録によると、紀元前663年の冬、山戎は燕に侵攻しました。これを受け、燕は斉に救援を要請し、斉の桓公が山戎を討伐。燕は救われましたが、桓公はさらに勢いに乗じて離枝、孤竹国をも征伐しました。最終的に山戎は燕に併合され、多くの人々は東胡や匈奴へと逃れたと考えられています。

山戎の生活様式は遊牧を基盤としていました。漢民族のような都市国家や城郭は築かず、馬、牛、羊などを中心とした家畜を飼育していました。ラクダ、ロバ、ラバ、さらには駃騠（けってい）、騊駼（とうと）、騨騱（だんけい）といった様々な種類の馬も放牧していたと推測されます。文字を持たなかったため、情報の伝達は口頭で行われていたと考えられます。

興味深いことに、山戎は独自の通貨を持っていました。それは燕の尖首刀を模倣したような針首刀と呼ばれるもので、中原文化との交流を示唆する重要な証拠です。このことから、山戎は高い文化水準を有していたと考えられます。

民族系統については、アルタイ語族に属すると推測されていますが、具体的にはテュルク系かツングース系のいずれか、あるいは両者の混血である可能性も考えられます。この点については、さらなる研究が必要とされています。

山戎の研究には、『春秋左氏伝』（荘公三十年）や『史記』（五帝本紀、秦本紀、秦始皇本紀、斉大公世家、燕召公世家、匈奴列伝）といった歴史書が重要な資料となっています。これらの文献を丁寧に検証することで、謎に包まれた山戎の文化や歴史をより深く理解することが期待されます。山戎の研究は、古代中国の歴史、特に北方民族との交流史を解明する上で、重要な役割を果たすでしょう。彼らの歴史を紐解くことで、多様な民族が織りなす古代中国社会の複雑さをより鮮やかに描き出すことができるのです。

関連語句: 犬戎、胡、戎、西戎、狄、東夷、東胡

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