戎

戎：古代中国を揺るがした遊牧民族

戎（じゅう／にゅう）は、中国の五帝時代から戦国時代にかけて、中国の西および北方に居住していた遊牧民族です。彼らはしばしば中国の歴代王朝領土に侵入し、略奪を行い、大きな脅威として認識されていました。地理的な位置から、西方の戎を西戎、北方の戎を北戎と大別します。王朝が滅んだ後も、西戎や戎狄といった言葉は蔑称として用いられ続けました。興味深いことに、「戎」という文字は古代中国の兵器を指し、「槍術に長けた民族」という意味合いも持っていたとされています。

戎の分類

遊牧民であった戎は、様々な集団に分かれていました。古代中国の記録では、居住地に基づいて集団の名前が付けられていますが、氏族名で呼ばれる集団も存在しました。

西戎

西戎は、以下の多くの部族から構成されていました。犬戎、燕京の戎、余無の戎、始呼の戎、翳徒の戎、條戎、奔戎、申戎、六済の戎、伊の戎、洛（雒）の戎、狄の戎、邽の戎、冀の戎、義渠の戎、大茘の戎、驪戎、楊拒の戎、泉皋の戎、陸渾の戎、蛮氏の戎、姜氏の戎、允氏の戎、陰戎、茅戎など、数多くの部族が複雑に絡み合い、勢力図を塗り替えながら歴史を刻んでいきました。それぞれの部族は、渭水、洛水、伊水などの河川流域を中心に居住し、独自の文化や勢力圏を持っていました。

北戎

北戎は、太原の戎、山戎、代戎などが知られています。西戎と比較して、記録に残る部族の数は少ないものの、彼らは北方の広大な地域に勢力を張り巡らせ、中国王朝に大きな影響を与えました。

戎の歴史

五帝時代

帝堯の時代、三苗の反乱を鎮圧した舜帝は、三苗を西方の辺境に移住させたとされています。これが西戎の起源とされる説があります。また、帝舜は周辺の様々な民族を懐柔し、西戎を含む多くの民族が貢物を納めたと伝えられています。

夏・殷（商）時代

周の祖先である不窋は、夏王朝の衰退期に農官を辞し、戎狄の間の地へ逃れました。その後、古公亶父は戎狄からの略奪に苦しみ、豳を捨て岐山へ移住しました。この出来事は、周王朝建国の神話にも深く関わり、周王朝の建国理念に影響を与えたと言われています。また、西伯は犬戎を討伐したという記録も残っています。

西周時代

西周時代には、犬戎は周朝に朝貢していましたが、穆王はこれを討伐しました。その後、戎狄からの朝貢は途絶えました。宣王や幽王の時代には、戎との戦争が頻発し、幽王の時代には犬戎の反乱により周は都を洛陽に移しました。

春秋時代

春秋時代には、戎は周王朝の衰退に乗じて、たびたび周や諸侯国を攻撃しました。秦は西戎との戦いを経て、勢力を拡大していきました。魯や斉、晋などの諸侯国も、戎との戦闘を繰り広げました。多くの戦闘記録は春秋左氏伝などに残されています。

戦国時代

戦国時代には、西戎の中でも義渠が秦に大きな脅威を与えました。秦は義渠との長期にわたる戦いの後、宣太后によって義渠は滅ぼされました。これにより、中国における戎の勢力はほぼ消滅しました。

戎の衰退

秦の宣太后による義渠の滅亡後、戎の勢力は大きく衰え、中国の歴史から姿を消していきます。しかし、その存在は中国の歴史に大きな足跡を残し、中国文明の形成に影響を与えたことは間違いありません。西戎、北戎という名称は、その後も中国において周辺民族を指す蔑称として用いられ続けました。

参考資料

『春秋左氏伝』
『国語』
『史記』
『後漢書』

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