山東京山

山東京山：江戸時代後期の教訓的な物語作家

山東京山（さんとう きょうざん、1769年7月18日-1858年10月30日）は、江戸時代後期の著名な戯作者です。本名は岩瀬百樹（いわせももき）、字は鉄梅、号は覧山・涼仙と、複数の名前で知られています。有名な戯作者、山東京山は兄にあたります。

深川の質屋の次男として生まれた京山は、幼少期から漢学や書画を学び、教養を身につけました。寛政3年（1791年）には叔母である猪飼氏の養子となり、篠山藩に仕えましたが、8年後には退職しています。その後、2度の結婚に失敗したのち、京橋に居住地を移し、篆刻や合巻・読本の執筆を主な生業としました。

京山の作品は、女性を主な読者層として想定した平易で温雅な作風が特徴です。数多くの作品を発表しており、代表作として『復讐妹背山物語』（文化4年、1807年）や『昔模様娘評判記』（天保6年、1835年）などが挙げられます。しかし、京山のライフワークともいえるのは、天保10年（1839年）から執筆を開始した『大晦日曙草子』、天保13年（1842年）から嘉永2年（1849年）にかけて発表された歌川国芳の絵を添えた『朧月猫草帋』、そして弘化3年（1846年）の『教草女房形気』など、長編の作品群です。これらの作品には、教訓的な要素が織り込まれており、読者への示唆に富んでいます。

単なる娯楽作品にとどまらず、社会や道徳に関する教訓を自然な形で作品に盛り込むことに、京山は高い才能を発揮しました。女性読者層を意識した優しい語り口調と、教訓的な内容の調和が見事に取れている点が、京山の作品の魅力となっています。

京山の創作活動は晩年まで続き、90歳で生涯を終えるまで、精力的に執筆を続けました。その多様な作品群は、当時の社会風俗や女性の生き方を知る上で貴重な資料となっています。特に弘化4年（1847年）に著された随筆『歴世女装考』は、近世風俗考証において重要な史料として高く評価されています。この作品は、当時の女性の生活や服装、社会的地位などを詳細に記述しており、歴史研究においても重要な役割を果たしています。

また、京山は鈴木牧之の『北越雪譜』の刊行に関わったことでも知られています。「京山人百樹」の名義で、同書の刪定（添削・修正）に携わったのです。これは、京山の幅広い知識と編集能力の高さを示すエピソードと言えるでしょう。

山東京山は、単なる戯作者としてだけでなく、教養豊かな知識人として、そして編集者としても活躍した人物でした。彼の作品群は、江戸時代の社会風俗や文化を理解する上で、欠かせない重要な資料となっています。現在も多くの読者から愛され、その作品は現代にまで受け継がれています。

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