山田三川

山田三川：波乱の生涯を送った幕末の儒学者

山田三川（やまだ さんせん、1804年3月31日 - 1862年9月8日）は、江戸時代後期から幕末にかけて活躍した儒学者です。その生涯は、故郷での誕生から始まり、江戸での学問修業、そして松前藩、安中藩での活動と、変化に富んでいます。

生い立ちと青年期

文化元年（1804年）、伊勢国三重郡平尾村で、町医者である山田孝純の三男として生まれた三川は、幼少期から歴史に興味を持ち、英雄伝などを好んで読んでいました。18歳になると、津藩の儒学者であった伯父・津阪東陽を頼り、初めて故郷を離れて津へと向かいます。この時、斎藤拙堂と親交を深めますが、津藩に留まることを良しとせず、昌平黌で学ぶことを目指し江戸へ向かいました。

昌平黌入学のため、三川は次兄が津藩士の家を継いでいたことを利用し「藩士の子弟」の資格を得ます。さらに、古賀侗庵の私塾に入門し「儒官の門弟」の資格も確保し入学を果たします。昌平黌では、安井息軒や塩谷宕陰といった人物と交友関係を築き、学問に励みました。また、この時期には甲斐国に滞在し、子弟の教育に携わる傍ら、各地を旅行し、その記録を『近蜀遊草』としてまとめました。

松前藩士として

昌平黌で学んだ後、三川は松崎慊堂の推薦により松前藩に仕官します。しかし、江戸在府での勤務という条件を提示し、藩邸での生活を避けました。これは、当時修史事業に携わっており、また友人からの助言があったためでした。松前藩では、対外問題、特にロシアとの関係に強い関心を持ち、択捉島に渡り実地検分も行いました。

松前藩での職務の傍ら、三川は藩主・松前昌広の精神病や放蕩ぶりに苦悩します。諫言を行った結果、藩主の怒りを買い追放されてしまいます。その後、友人たちに助けられ、水海道で私塾を開き生計を立てました。この時期、藤田東湖や桜任三、添川簾斎などとも交友を深めています。

安中藩士として

水海道での評判を聞いた徳川斉昭が三川を知り、板倉勝明に紹介したことで、嘉永5年（1852年）に安中藩の藩儒として迎えられました。安中藩では、郡奉行などの要職を歴任し、藩政に大きく貢献します。特に、漆園の運営による領内の活性化を図りました。また、藩校で教えた弟子の一人に新島襄がいます。

安中藩では、松前藩時代とは異なり、藩主・板倉勝明の下でその能力を十分に発揮し、穏やかな晩年を送ることができました。文久2年（1862年）に安中にて没し、その墓は竜昌寺にあります。

人物と家族

三川は、その学識の高さはもちろんのこと、不正を許さない強い意志の持ち主でした。松前藩での諫言はその象徴と言えるでしょう。また、交友関係も広く、多くの人物と親交を深めました。

家系については、祖父の山田節翁は医者であり、天明の飢饉の際に村人を救った篤志家でした。父の孝純もまた医者であり、三川の兄たちもそれぞれ家を継いでいます。三川は、与板藩士の娘である静子と結婚し、五人の娘と二人の息子をもうけました。特に、長男の山田亨太は三川の跡を継ぎ、その子孫もまた、多方面で活躍しました。

著作と後世への影響

三川の著作として、『三川雑記』と『想古録』が知られています。『三川雑記』は、天保の飢饉を体験した三川が、その様子や世間の状況を記録した日記であり、当時の社会情勢を知る上で貴重な資料となっています。『想古録』は、近世の人物逸話をまとめたものであり、その人物評は非常に興味深いものです。

山田三川は、その波乱に満ちた生涯の中で、常に学問を追求し、社会に貢献しようとした人物でした。彼の業績は、今もなお多くの人々に影響を与えています。

もう一度検索