斎藤拙堂

斎藤拙堂：幕末の津藩を支えた碩学

斎藤拙堂（さいとう せつどう）は、寛政9年（1797年）に生まれ、慶応元年7月15日（1865年9月4日）に没した、幕末期の津藩における重要な朱子学者です。諱は正謙、字は有終、通称は徳蔵といい、拙堂、鉄研学人などの号を用いていました。

生涯

江戸の津藩邸で藩士の子として生を受けた斎藤拙堂は、昌平黌で古賀精里の薫陶を受けました。文政3年（1820年）には、古文の知識を買われ、藩校である有造館の創設に参画、文政7年（1824年）には藩主・藤堂高猷の侍講に抜擢されました。

天保12年（1841年）には郡奉行に任じられ、地方役人や庄屋の不正を糺すなど、行政手腕を発揮しました。弘化元年（1844年）に有造館の督学（校長）となると、学則を改正し、人材の発掘・育成に注力しました。蔵書の拡充にも尽力し、『資治通鑑』294巻を刊行するなど、教育環境の整備に大きく貢献しました。

阿片戦争後には海外事情の研究にも取り組み、時勢の変化に敏感に対応しました。自身は朱子学者でありながらも、西洋の優れた文物を取り入れ、和漢洋折衷の思想を唱えました。有能な藩士を江戸に派遣して洋学や西洋兵術を学ばせたり、種痘術導入の際には有造館に種痘館を開設し、藩内での普及に尽力するなど、藩政改革を積極的に推進しました。

安政2年（1855年）には、幕府の命により江戸へ赴き、将軍・徳川家定に拝謁しました。幕府からは儒官としての登用を打診されましたが、主君のもとを離れることを潔しとせず、この申し出を辞退しました。

文久2年(1859年)に致仕し、慶応元年（1865年）に生涯を閉じました。墓所は三重県津市の四天王寺にあります。大正13年（1924年）には、その功績が認められ、正五位が追贈されました。

人物・業績

頼山陽、大塩平八郎、渡辺崋山、吉田松陰など、多くの儒学者や文人と交流を持ちました。三島中洲、河井継之助といった、後世に名を残す人物を弟子として育て上げました。

博学多才で知られ、特に漢文の知識は深く、『拙堂文話』では古今の漢文について評論を展開しました。また、『士道要論』や『海防策』など、武士のあり方や国防に関する論考も著しています。経世論にも関心を持ち、『海外異伝』や『魯西亜外記』といった海外事情に関する著作も残しました。

紀行文を得意とし、『月瀬記勝』は、大和国月ケ瀬を梅の名所として世に知らしめ、頼山陽の『耶馬渓図巻記』と並び称される紀行文の傑作として、斎藤拙堂の名声を高めました。また、後南朝の名付け親としても知られています。

著書

『伊勢国司記略』
『拙堂紀行文詩』
『拙堂文話』
『月瀬記勝』
『南遊志』
『海外異伝』
『魯西亜外記』
『士道要論』
* 『海防策』

斎藤拙堂は、学問を通じて藩政に貢献し、多くの人材を育成しただけでなく、文化の発展にも寄与した、幕末期の津藩を代表する人物の一人です。

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