山田奉行

山田奉行:伊勢神宮と周辺地域を治めた幕府の役職



山田奉行は、江戸幕府において伊勢神宮の守護と管理、周辺地域の支配を担った重要な役職でした。別名、伊勢奉行、伊勢町奉行、伊勢郡代、伊勢山田奉行、伊勢山田町奉行などと呼ばれ、遠国奉行の一つとして老中に属していました。

役割と権限



山田奉行の主な役割は、伊勢神宮の内宮と外宮の警備、造営・修理、祭礼、そして20年に一度行われる遷宮の取り仕切りでした。さらに、伊勢・志摩地域の訴訟処理、鳥羽港の警備と船舶の点検などもその業務範囲に含まれていました。伊勢湾における異国船の取り締まりも行っていたとされ、その権限は広範囲に及んでいました。

定員は1名または2名で、元禄9年(1696年)からは2名体制となり、江戸と伊勢を交代で勤務する制度が導入されました。役高は1000石、役料は1500俵が支給され、与力6騎、同心70人、水主40人を配下としていました。

歴史



山田奉行所の設置は慶長8年(1603年)に遡ります。伊勢神宮神領地に設置された奉行所は、神宮の警固に加え、伊勢湾や南海での不審船の取り締まり、伊勢志摩神領以外の地域も支配下に置いていました。「日光御奉行」と同等とされ、特に重要な任務は21年ごとの遷宮の運営でした。

一説には、山田奉行は豊臣秀吉が創設し、江戸幕府が引き継いだともいわれています。愛洲伊予守忠行が文明時代に武家として初めて大神宮神領奉行職に任じられたことに端を発し、明治維新までその役割は途絶えることなく続きました。正保4年(1647年)からは、毎年江戸から伊勢神宮に奉幣使が派遣されるようになり、山田奉行は将軍の代理として代参することも重要な任務となりました。

奉行所と山田羽書



当初、奉行所は伊勢国山田(現在の三重県伊勢市)に置かれましたが、寛永12年(1635年)には度会郡小林(現在の伊勢市御薗町小林)に移転しました。享保8年(1723年)に残された「山田奉行屋敷図面」によると、小林の奉行所は城館のような構造で、板塀に囲まれ、番所、濠、役人詰所、奉行の屋敷などから成っていました。奉行所跡は昭和46年(1971年)に市の史跡に指定されています。

伊勢国は伊勢商人の拠点として知られ、特に伊勢山田は伊勢御師の拠点でもありました。山田奉行の保護下にあった伊勢山田と伊勢御師は、一種の為替である「山田羽書」を発行していました。これは各地で流通する貨幣の代用として機能し、幕府による紙幣規制後も例外的に発行が許されていました。しかし、寛政2年(1790年)の寛政の改革により、山田奉行の管理下に置かれることとなりました。

境界紛争と歴代奉行



山田奉行は、紀州徳川家領と接していたため、しばしば境界紛争が発生しました。特に、寛永16年(1639年)から続く紀州藩との前山・佐八(そうち)村境域争いは、第十代奉行桑山下野守貞政が寛文7年(1667年)に解決しています。大岡忠相が山田奉行を務めたという伝説がありますが、これは史実とは異なるようです。

まとめ



山田奉行は、伊勢神宮の保護と管理、周辺地域の支配、そして独自の通貨発行など、多様な役割を担った重要な役職でした。その歴史と活動は、江戸時代の伊勢地方の政治と経済を知る上で欠かせないものです。 様々な記録や史料から、その実態をより深く理解することが求められます。 また、紀州藩との関係や境界問題なども、山田奉行の活動の重要な側面として理解する必要があります。

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