羽書

羽書（はがき）とは

羽書とは、近世の伊勢国において民間が発行した紙幣の一種です。慶長15年（1610年）に伊勢山田で発行された山田羽書が現存最古のもので、日本最古の紙幣とする説もあります。世界初の紙幣である宋代の交子に次いで古い紙幣とされています。

羽書の発行背景

伊勢国は、古くから伊勢商人の拠点として知られていました。特に伊勢神宮の門前町である伊勢山田は、日本各地に営業網を持つ伊勢御師の拠点でもありました。このつながりを活用し、一種の為替を発行して貨幣の代用としたのが、最初の羽書である山田羽書の原型とされています。

山田羽書の特徴

山田羽書は、江戸幕府発行の丁銀との引き換えを約束した兌換性を有しており、銀1匁、5分、3分、2分の4種類が発行されていました。寛文8年（1668年）以降は、小判との兌換を前提とする形式に改められ、丁銀と同様に64匁の羽書と金1両の引き換えが行われるようになりました。

羽書の広がり

山田羽書の影響を受け、宇治、射和、松坂、丹生、中万、白子、一身田など、伊勢各地で羽書が発行されるようになりました。これらの羽書を統括するため、「羽書株仲間」と呼ばれる株仲間が結成され、最盛期には39組404名で構成されていました。また、大坂など上方や周辺部の民間紙幣、藩札の発行にも影響を与えました。

羽書の変遷

羽書の中核であった伊勢山田と伊勢御師は、山田奉行の保護下にあり、かつ幕府貨幣との兌換を前提としていたことから、藩札や民間紙幣の発行が幕府によって規制された後も、規制の対象外とされていました。しかし、寛政の改革の一環として、寛政2年（1790年）に伊勢山田における都市自治が制限され、山田奉行による市政支配が徹底されると、羽書の発行もその管理下に置かれました。

三方会合所、羽書取締役、羽書年行司による監督体制が編成され、幕府貨幣との兌換に必要な手当金は上納が命じられました。これにより、山田御師や羽書株仲間は発行の利益を失い、幕府からの重い賦課の対象となりました。一方、紀州藩の支配下にあった松坂で発行された松坂羽書は、幕府支配の対象外であり、地元の為替組とともに、松坂発祥の豪商である三井組も発行に携わっていました。

羽書の終焉

明治維新後、一時的に度会府に羽書発行権限が移されましたが、明治3年（1870年）に発行が停止されました。残された流通羽書は、翌年から開始された藩札回収に準じて回収が行われ、期限とされた明治6年（1873年）8月末までにほとんどの回収を終えました。

まとめ

羽書は、伊勢国を中心に流通した民間紙幣であり、地域経済に重要な役割を果たしました。特に、山田羽書は日本最古の紙幣の一つとされるなど、歴史的にも貴重な存在です。その発行背景や変遷を理解することは、近世の経済史を理解する上で重要と言えるでしょう。

参考文献

作道洋太郎「羽書」（『国史大辞典 11』（吉川弘文館、1990年） ISBN 978-4-642-00511-1）

関連項目

御師
* 日本の貨幣史

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