岡部又右衛門

岡部又右衛門：安土城天守閣を築いた名工の生涯

岡部又右衛門は、室町時代後期から安土桃山時代にかけて活躍した、日本を代表する大工棟梁です。正確な生没年は不明ですが、尾張国（現在の愛知県）出身で、熱田神宮宮大工の棟梁を務めた人物として知られています。修理亮という官位に叙せられたという記録も残っており、高い地位と名声を享受していたことがうかがえます。諱は以言、あるいは吉方とも伝えられています。

熱田神宮から安土城へ

岡部家は代々、室町幕府将軍家の修理亮を務めた家系であったと『岡部家由緒書』には記されています。又右衛門は、その家系の伝統を受け継ぎ、卓越した技量で数々の建築工事に携わりました。天正元年（1573年）、近江国佐和山（現在の滋賀県）において、長さ30間（約54メートル）、幅7間（約12.6メートル）、櫓100挺という巨大な軍船を建造したという記録が『信長公記』に残されています。この規模の軍船建造は、当時の技術力をもってしても並々ならぬ困難を伴う大事業であったと考えられます。

その後、天正3年（1575年）には、織田信長による熱田神宮造営に参加。被官大工として、その手腕を発揮したとされています。そして、信長の天下統一事業の象徴ともいえる安土城の築城においては、大工棟梁として中心的な役割を担いました。息子の岡部以俊（岡部又兵衛）と共に、高さ約50メートルにも及ぶ5重7階建ての壮麗な天守閣の建設を指揮しました。その功績により、信長から「総大匠司」の位と「日本総天主棟梁」の称号を授かり、さらに小袖を賜ったと伝えられています。

本能寺の変とその後

本能寺の変の際、信長と共に本能寺に宿泊していたとされ、以俊と共に戦死したという説もあります。しかし、変後も生存していたという記録も存在します。織田信雄に仕え、天正11年（1583年）には、尾張国中島郡赤池郷、さらに熱田において土地と金銭を与えられています。これは、又右衛門の優れた技量と功績が、信長死後も高く評価されていたことを示す証拠と言えるでしょう。没年については不明な点が多く、今後の研究が待たれます。没後、以俊の子である宗光が家督を継ぎ、「岡部又兵衛」を名乗りました。

岡部家の系譜と歴史的意義

現在の名古屋市熱田区には、かつて岡部家の屋敷があった跡地に、名古屋市教育委員会によって史跡表札が建てられています。これは、岡部又右衛門とその一族が日本の建築史に多大なる貢献をした証です。又右衛門の孫にあたる岡部宗光もまた、著名な大工として活躍し、豊臣秀吉による方広寺大仏殿（京の大仏）の造営や、徳川家康による二条城造営など、数々の重要な建築工事に参加しました。

岡部又右衛門は、その卓越した技術と指導力によって、室町時代から安土桃山時代にかけての建築文化に大きな影響を与えた人物と言えるでしょう。熱田神宮や安土城といった歴史的建造物に関わった彼の功績は、現代においても高く評価され、日本の建築史において重要な位置を占めています。彼の生涯は、日本の建築技術の進歩と発展を物語る貴重な歴史資料となっています。また、岡部家と穴太衆との関係についても、今後の研究によってさらに明らかになることが期待されます。

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