崎山理

崎山理（さきやま おさむ）

日本の学術界において、人類学と言語学の両分野に顕著な貢献をした研究者、それが崎山理氏（1937年 - ）です。特に、東南アジアおよびオセアニア地域の多様な言語、とりわけ少数言語や、言語が互いに影響し合う「言語接触」「言語混合」といった現象に焦点を当てたフィールドワークは、氏の研究の大きな特色です。また、日本語の成り立ちに関する深い考察でも知られ、国立民族学博物館と滋賀県立大学で長年にわたり教鞭を執り、現在は両機関の名誉教授の称号を有しています。

経歴と学術の歩み

崎山氏は1937年4月6日、大阪の地で生を受けました。学問の道に進み、1962年に東京外国語大学のフランス語学科を卒業後、さらに専門性を深めるため京都大学大学院文学研究科に進学しました。1967年には同大学院博士課程において、必要な単位を全て取得して退学しています。この間、1964年から1966年にかけては、インドネシアのインドネシア大学およびガジャ・マダ大学文学部へ給費奨学生として留学し、現地で貴重な研究経験を積みました。後に、京都大学から博士（文学）の学位を授与されています。

研究者としてのキャリアは多岐にわたります。初期には大阪外国語大学外国語学部や広島大学総合科学部で助教授を務め、教育・研究活動に従事しました。その後、国立民族学博物館に移り、助教授、さらには第5研究部教授、民族文化研究部教授といった要職を歴任し、日本の民族学・人類学研究の発展に深く関わりました。同博物館は2001年に規定により退職しています。

国外での活動も積極的に行い、1984年から1985年にはパプアニューギニア大学学芸学部に客員助教授として在籍し、オセアニアにおけるフィールドワークの基盤をさらに強固なものとしました。また、学術行政面でも手腕を発揮し、1993年から1994年には総合研究大学院大学文化科学研究科長を務めました。国立民族学博物館を退職後、滋賀県立大学人間文化学部の教授に就任し、2006年の定年退職後も同大学で引き続き教育・研究活動に携わりました。

研究分野と主要な業績

崎山氏の学術的関心は、主に東南アジアとオセアニアの言語と文化に集中しています。これらの地域で精力的にフィールドワークを実施し、多数の少数話言語を対象とした詳細な調査を行いました。言語の記述研究に加え、異なる言語が接触することで生じる現象や、言語体系が混合するプロセスを理論的・実証的に分析する研究は、氏の重要な業績の一つです。

特に注目すべきは、日本語の起源に関する研究です。単なる比較言語学的なアプローチに留まらず、日本語の歴史において様々な言語との接触や混合がどのように関わってきたのかを探求する視点は、氏独自の貢献です。この成果は、『日本語「形成」論 日本語史における系統と混合』などの著作に結実しています。初期の重要な著作には、『南島語研究の諸問題』があり、これはオーストロネシア語族に関する研究における基礎的な文献として位置づけられています。

氏の著作は、単著のほか、多くの編著や共編著があります。これらを通じて、言語人類学、アジアの諸言語、オセアニアの伝統文化、そして消滅の危機に瀕している世界の言語といった、幅広いテーマについて論じています。これらの活動は、氏が学界内外で築いた広範なネットワークと、共同研究を重視する姿勢を示しています。

特筆すべき活動

学術的な業績に加え、崎山氏は学術の枠を超えた活動でも知られています。例えば、日本の音楽家である姫神の楽曲「神々の詩」では、古代日本語をモデルにしたとされる独創的な言語による歌詞を提供しました。これは、言語学者としての深い知識と、それを芸術表現に応用する創造性が融合したユニークな事例です。

崎山理氏の多岐にわたる研究と活動は、言語と文化の多様性を理解する上で貴重な知見を提供し、関連分野の研究に大きな影響を与え続けています。

主な著作一覧

『南島語研究の諸問題』（弘文堂、1974年）
『日本語「形成」論 日本語史における系統と混合』（三省堂、2017年）
『ある言語学者の回顧録―七十踰矩』（風詠社、2017年）

編著

『現代の人類学 3 言語人類学』（和田祐一 共編著、至文堂、1984年）
『日本語の形成』編（三省堂、1990年）

共編著

『アジアの諸言語と一般言語学』（佐藤昭裕との共編、三省堂、1990年）
『オセアニア2 伝統に生きる』（須藤健一、秋道智彌との共編、東京大学出版会、1993年）
『消滅の危機に瀕した世界の言語―ことばと文化の多様性を守るために』（宮岡伯人との共編、明石書店、2002年）

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