崎川才四郎

崎川才四郎（さきがわ さいしろう）

1870年（明治3年）4月15日に生まれ、1956年（昭和31年）12月4日に没した崎川才四郎は、明治後期から昭和にかけて日本の産業行政の中枢で重要な役割を果たした官僚です。現在の佐賀県小城市の一部である肥前国小城郡岩松村に、佐賀県士族の崎川幸親の長男として生を受けました。

経歴

崎川才四郎は、旧制第二高等学校で基礎を築いた後、当時日本の最高学府であった東京帝国大学法科大学に進み、政治科を専攻しました。1896年（明治29年）に大学を卒業すると、同年に実施された高等文官試験に合格し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。

彼の官僚生活は、農商務省から始まりました。農商務属として任官した後、同省の参事官、書記官と昇進を重ねました。特に山林局書記官としての経験は、日本の自然資源管理における初期の重要な一歩に関わるものでした。

その後、崎川は地方の要職も歴任します。主要な鉱山地域における行政を担う福岡鉱山監督署長、続いて大阪鉱山監督署長を務め、現場における産業の実情に深く触れる機会を得ました。これらの経験は、後の産業政策形成において彼の視野を広げることとなりました。

中央に戻ると、日本の産業振興と技術保護に直結する重要な部署である特許局長、そして鉱山局長を歴任しました。特に特許行政においては、国の知的財産制度の整備・運用に中心的な役割を果たしたと推測されます。

彼のキャリアの頂点となったのは、1923年（大正12年）に特許局の最高責任者である特許局長官に就任したことです。これは、長年にわたる産業行政、特に特許分野での彼の功績と専門性が高く評価された結果と言えるでしょう。特許局長官在任中の1930年（昭和5年）5月には、その貢献が認められ、親任官待遇という高い栄誉を受けました。これは、天皇から直接任命される閣僚や大使に準ずる待遇であり、彼の官界における地位の高さを示すものでした。

同年7月、崎川才四郎は長年の官僚生活に終止符を打ち、退官しました。

退官後の活動

官界を離れた後も、崎川才四郎はその豊富な経験と人脈を活かし、実業界で活躍しました。北樺太石油株式会社の取締役や、東洋窒素工業株式会社の顧問を務めるなど、企業の経営や事業の推進に関与し、日本の産業界の発展に貢献を続けました。

家族関係

崎川才四郎の家族構成は、当時の日本の官界、経済界、学術界との広範な繋がりを示しています。父は佐賀県士族の崎川幸親。妻のツルは、北海道拓殖銀行の取締役を務めた馬島渡の妹にあたります。

長女の杉山貞は、中国鉄道社長であった杉山岩三郎（文太郎）の弟、三郎氏の妻となりました。弟の崎川茂太郎は優れた鉱山技師であり、東京帝国大学卒業後、大学院を経て住友別子銅山に入社し、欧米留学も経験。大蔵省調査課、日本興業銀行技師を経て三井鉱山でも活躍しました。興味深いことに、茂太郎の妻である千代は、兄嫁であるツルの妹にあたります。千代は、旧制第一高等学校の生徒であった藤村操が1903年に華厳滝で投身自殺した際、その遺書「巌頭之感」に影響を与えた片思いの相手であったことでも知られています。

崎川家からは、茂太郎の長男である崎川範行（1909-2006）が工業科学者として名を成し、東京工業大学や日本大学で教授を務めました。また、茂太郎の長女である川崎静代は、川崎財閥の一族である川崎金蔵（川崎芳太郎の三男）に嫁いでいます。

さらに、姻戚関係を通じて、富永鴻や有吉明といった、当時の社会において著名であった人物とも繋がりがありました。

まとめ

崎川才四郎は、日本の近代化が進む中で、特に産業・鉱業行政や知的財産制度の確立・運営において重要な役割を果たした官僚でした。そのキャリアは、エリート教育から始まり、多岐にわたる要職を経て、特許行政のトップに上り詰めました。官界引退後も実業界でその手腕を発揮しました。また、彼の家族構成からは、当時の日本の官界、実業界、学術界の重鎮たちが複雑な姻戚関係によって結びついていた様子がうかがえます。崎川才四郎の生涯は、日本の近代国家建設を支えた専門家集団の一員としての貴重な足跡を現代に伝えています。

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