嵐の使者

ディープ・パープル『嵐の使者』：第三期の終焉と音楽性の変遷

『嵐の使者』（Stormbringer）は、1974年にディープ・パープルが発表したアルバムです。第3期の2作目であり、最後のスタジオ・アルバムとなりました。前作『紫の炎』（Burn）から加入したデイヴィッド・カヴァデールとグレン・ヒューズの音楽的影響力が強まり、リッチー・ブラックモアが志向する音楽との方向性の違いが顕著になった時期の作品です。

制作の背景

アルバム制作は、メンバー間の緊張感が高まる中で行われました。ブラックモアは、クォーターマスの楽曲「ブラック・シープ・オブ・ザ・ファミリー」の録音を提案しましたが、他のメンバーはオリジナル曲にこだわったため、この提案は受け入れられませんでした。このことが、ブラックモアのバンドに対する不満をさらに募らせる一因となりました。

レコーディングは1974年8月にミュンヘンのミュージックランド・スタジオで行われ、ディープ・パープルとマーティン・バーチがプロデュースを担当しました。ミックスダウンはバーチとドラマーのイアン・ペイスが担当し、最終的な仕上げはロサンゼルスのレコード・プラント・スタジオで行われました。

1974年12月に世界同時発売され、日本では「嵐の女」（Lady Double Dealer）がシングルカットされました。

音楽的な特徴

『嵐の使者』は、従来のディープ・パープルのハードロックサウンドに、ファンクやソウルの要素を取り入れた、より多様な音楽性が特徴です。カヴァデールとヒューズのボーカルが前面に出た楽曲が多く、特にヒューズはベースだけでなくボーカル面でも存在感を示しています。ブラックモアのギタープレイも健在ですが、アルバム全体としては、彼の音楽的な嗜好とは異なる方向へと進んでいます。

収録曲は以下の通りです。

サイド1
1. 嵐の使者 (Stormbringer)
2. 愛は何よりも強く (Love Don't Mean a Thing)
3. 聖人 (Holy Man)
4. ホールド・オン (Hold on)
サイド2
1. 嵐の女 (Lady Double Dealer)
2. ユー・キャント・ドゥー・イット・ライト (You Can't Do It Right (With The One You Love))
3. ハイ・ボール・シューター (High Ball Shooter)
4. ジプシー (The Gypsy)
5. 幸運な兵士 (Soldier of Fortune)

35周年記念盤もリリースされており、グレン・ヒューズによるリミックスや4チャンネルミックスなどが収録されています。

評価と影響

アルバムは本国イギリスで6位、アメリカで20位を記録し、ゴールドディスクを獲得しました。しかし、ブラックモア自身は「最低のアルバムだ」と語っており、一般の評価も賛否が分かれています。従来のハードロックファンからは、音楽性の変化に戸惑う声も上がりましたが、新たな音楽性への挑戦は評価されています。

第3期の終焉

『嵐の使者』の発表後、ブラックモアはロニー・ジェイムス・ディオ（エルフのボーカリスト）とソロプロジェクトを開始します。そして、1975年4月にディープ・パープルを脱退し、レインボーを結成しました。これにより、デイヴィッド・カヴァデール、グレン・ヒューズ、ジョン・ロード、イアン・ペイスによる第3期ディープ・パープルは終焉を迎えることとなりました。

『嵐の使者』は、ディープ・パープルの歴史において、音楽性の変化とメンバー間の葛藤が表面化した、重要な作品と言えるでしょう。このアルバムを機に、バンドは新たな道を歩み始めることになります。

メンバー

リッチー・ブラックモア - ギター
デイヴィッド・カヴァデール - ボーカル
グレン・ヒューズ - ベース、ボーカル
ジョン・ロード - キーボード
* イアン・ペイス - ドラムス

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