川手城

川手城（かわてじょう）

岐阜県岐阜市正法寺町に位置していた川手城は、南北朝時代から戦国時代にかけて、この地の有力な守護大名であった土岐氏の主要な拠点として機能した城郭です。別名、革手城とも呼ばれています。

歴史

川手城の歴史は、美濃源氏の流れを汲む土岐氏の第三代当主、土岐頼康に始まります。頼康は、信濃国や伊予国の平定に貢献した功績が認められ、それまでの支配領域に加え、美濃、尾張、伊勢という広範な三国の守護職を兼任することとなりました。文和二年（1353年）、それまで土岐氏の本拠地であった長森城が手狭になったため、頼康は新たな政治・軍事拠点として、長森城から西方へ約三キロメートル離れた川手の地に築城を開始しました。この城は、以降、土岐氏が第十一代当主の土岐頼芸に至るまで、およそ一世紀半にわたりその居城として用いられることになります。

川手城の立地は、旧木曽川（現在の境川）と荒田川という二つの河川に挟まれた地形を利用しており、これは自然の防御線として機能しました。また、城の西側は京と東国を結ぶ重要な街道である東山道に近接し、東側は天正十四年（1586年）までは尾張国との国境であった古木曽川に面していました。土岐頼康にとって、この川手城を拠点とすることで、美濃国はもちろん、尾張国へも影響力を及ぼし、さらに古木曽川の水運を活用して河口の伊勢国桑名へと至るルートを掌握することで、与えられた三国全体の統治を円滑に進めるための要所としたと考えられます。

川手城は、武力による防衛を第一とした堅固な要塞というよりも、守護大名の居館としての性格が強い城郭でした。広大な敷地内には、主殿として御殿風の建築物が建てられ、また、城主やその家臣、あるいは移り住んだ人々によって建てられた多くの神社や仏閣などが配されていました。これは、城が単なる軍事施設ではなく、当時の政治、経済、文化の中心地としての役割も担っていたことを示唆しています。

応仁元年（1467年）に勃発した応仁の乱は、京都を戦火に巻き込みました。戦乱を避けて都から逃れた公家や文化人たちは、当時勢力のあった美濃守護土岐氏を頼り、川手の地へと移り住みました。これにより、川手には洗練された都の文化が持ち込まれ、大いに栄えることとなります。当時の川手の繁栄ぶりは目覚ましく、西国の有力大名大内氏の本拠地である山口と並び称され、「西の山口、東の川手」と称されるほどでした。

しかし、その繁栄も長くは続きませんでした。明応二年（1494年）、土岐氏内部の家督相続争いが引き金となった船田の乱によって、川手城は焼失するという被害を受けました。その後、城は再建されたものの、戦国時代の激動の中で土岐氏の勢力は次第に衰退します。享禄三年（1530年）、家臣であった斎藤道三が土岐氏を追放し、自らの本拠地を稲葉山城（後の岐阜城）に移したことにより、川手城はその役目を終え、廃城となりました。

廃城となった後も、川手城の城下町として栄えた川手（現在の岐阜市上川手、下川手にあたる地域）は、斎藤道三などの保護もあり、しばらくの間は賑わいを保ちました。当時日本を訪れた宣教師たちが、その町の活気ある様子を記録に残しているほどです。しかし、織田信長が稲葉山城を岐阜と改称し、城下町を整備するにつれて、多くの商人や町民が新しい中心地である岐阜へと移り住み、川手の町は徐々に衰退していきました。

廃城後も、川手城の跡地にはかつての土塁などが残存していましたが、江戸時代に入り、徳川家康の命によって近隣に加納城が築城される際、その土塁の大部分が城郭の普請材として転用されてしまったと言われています。

現状

現在、川手城の主要な跡地には岐阜市立済美高等学校が建てられています。校地内には、城の歴史を示す石碑や解説板が設置されており、往時を偲ばせるわずかな土塁の一部も残存しています。また、城の鬼門（北東）にあたる位置にある石切神社（岐阜市下川手）は、川手城の鬼門除けとして祀られた守護神社であったという伝承があります。

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