工藤俊作 (海軍軍人)

工藤俊作：海軍軍人、敵兵を救った武士道精神

工藤俊作（1901年1月7日 - 1979年1月12日）は、大日本帝国海軍の軍人です。最終階級は海軍中佐。山形県出身で、海軍兵学校を卒業後、様々な艦艇に乗り組みました。

生い立ちと海軍入隊

山形県東置賜郡屋代村（現在の高畠町）で、農家の次男として生まれました。旧制米沢中学校（現在の米沢興譲館高校）を経て、1920年に海軍兵学校に入学（51期）。同期には大井篤らがいました。海軍兵学校卒業後、遠洋航海を経て、軽巡洋艦「夕張」などに配属されました。

太平洋戦争開戦と「雷」艦長

太平洋戦争開戦時、工藤は駆逐艦「雷」の艦長でした。「雷」は第六駆逐隊に所属し、香港攻略作戦に参加。その後、南方作戦にも従事しました。1942年3月1日のスラバヤ沖海戦では、友軍と共にイギリス海軍の艦艇を撃沈する戦果を上げました。

スラバヤ沖海戦における敵兵救助

海戦翌日、工藤は「雷」の乗組員に、前日の海戦で撃沈されたイギリス海軍の駆逐艦「エンカウンター」などの乗組員が漂流しているのを発見しました。敵兵であるにもかかわらず、工藤は「助けてやれ」と一言指示。3時間に及ぶ救助活動の結果、422名ものイギリス兵を救助しました。

工藤は救助したイギリス士官に対し、「あなた方は勇敢に戦った。今は日本海軍の名誉ある賓客である」と英語でスピーチしたと伝えられています。救助された人々は、その後、オランダ海軍の病院船に引き渡されました。

この敵兵救助の事実は、戦時中の国民感情を考慮して公表されず、工藤自身もこの事を親族に語ることはありませんでした。しかし、この人道的行為は、後に救助されたイギリス士官によって明らかにされ、多くの人々に知られることになります。

戦後の生活と再評価

戦後、工藤は公職追放となり、故郷の山形で過ごしました。その後、埼玉県川口市に移り、1979年に胃癌で亡くなりました。臨終の際には、海軍兵学校の同期であった大井篤が見舞いに訪れ、旧交を温めました。

敵兵救助の事実は、戦後長らく伏せられていましたが、救助されたイギリス海軍士官の一人であったサムエル・フォール元海軍中尉が、工藤の消息を追った事から明るみに出ました。フォールは、恩人である工藤への感謝の思いを綴った手記をアメリカ海軍の機関誌に寄稿したほか、イギリスのタイムズ紙にも紹介しました。フォールの尽力により、2008年には工藤の墓前で追悼が行われました。

人物像とエピソード

工藤は、身長185cm、体重95kgと大柄で、柔道の有段者でした。しかし、性格は温厚で部下思いであり、「工藤大仏」という愛称で親しまれました。艦内では鉄拳制裁を厳禁し、部下を分け隔てなく接したことから、工藤が艦長を務めた艦内は、いつもアットホームな雰囲気に満ちていたと言います。また、決断力があり、細かいことには拘泥しなかったため、部下の信頼は厚かったと伝えられています。

また、高松宮宣仁親王が、戦艦「長門」に乗務中に怪我をした際、工藤の靴を借りたというエピソードも残っています。このエピソードからも、工藤の豪快で親しみやすい人柄が伺えます。

工藤の精神と後世への影響

工藤俊作は、武士道の精神と人道的な行動を体現した人物として、後世に語り継がれています。その功績を称え、出身地の高畠町には顕彰碑が建立されました。また、工藤が敵兵を救助したという出来事は、テレビ番組や書籍などでも取り上げられ、多くの人々に感動を与えています。工藤の物語は、戦時下における人道的行為の重要性を示し、平和への願いを伝えています。

工藤が行った敵兵救助は、上村彦之丞による日露戦争時の敵兵救助や、一ノ瀬志朗による太平洋戦争時の捕虜救助など、過去の戦史に見られる人道的行為と共通する部分があります。これらの行為は、戦争という極限状態においても、人間としての尊厳や思いやりを失ってはならないことを教えてくれます。

工藤俊作は、海軍軍人としての功績だけでなく、その人道的な精神によって、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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