市川翠扇 (3代目)

三代目 市川翠扇（1913年12月16日 - 1978年9月27日）は、昭和時代にその名を轟かせた新派の女優であり、卓越した舞踊家でした。歌舞伎舞踊市川流の三世家元としても知られ、本名を堀越 喜久榮といいます。

東京都京橋区築地で、歌舞伎役者である五代目市川新之助を父に、九代目市川團十郎の次女で二代目市川旭梅を母に持つという、芸能一家に生まれました。幼少の頃から芸事に親しみ、千代田高等女学校（現在の武蔵野大学附属千代田高等学院）を卒業後、本格的に舞台の世界へと足を踏み入れます。

1929年6月、歌舞伎座で上演された『戻り駕』にて禿役を務め、市川紅梅という名で初舞台を踏みました。翌年には日本俳優学校の一期生となり、演技の基礎を学びます。1931年11月からは新派に参加し、その才能を開花させました。

市川翠扇は、長きにわたり名脇役として多くの舞台作品に出演し、新派が本流新派と新生新派に分裂した後も、双方の舞台に立ち続けました。その演技力は高く評価され、1957年5月には新橋演舞場にて三代目市川翠扇を襲名し、市川流三世家元を継承すると同時に、新派の大幹部へと昇格しました。花柳章太郎の死後は、初代水谷八重子を支え、新派の副将格としてその発展に大きく貢献しました。

1969年には、『蛍』のおよし役と『巷談宵宮雨』のおいち役での演技が認められ、第20回芸術選奨文部大臣賞を受賞しました。その功績は多岐にわたり、舞台、映画、テレビドラマなど、様々なメディアでその才能を発揮しました。

主な舞台の当たり役としては、『婦系図』の小芳、『皇女和の宮』の待女夕秀、『風流深川唄』の文字力などが挙げられます。映画では、『本日休診』、『続夫婦百景』、『香華』、『肉体の学校』、『無頼漢』などに出演しました。また、テレビドラマでは、『東芝日曜劇場』、『ウロコ座』、『お好み日曜座』、『東芝家族劇場』、『NECサンデー劇場』、『指名手配』、『ここに人あり』、『女の四季』、『名作菊五郎劇場』、『テレビ指定席』、『おかあさん』、『講談ドラマ』、『シャープ火曜劇場』、『ポーラ名作劇場』、『嫁ぐ日まで』、『テレビ劇場』、『七人の刑事』、『文芸劇場』、『こども劇場』、『NHK劇場』、『夫婦百景』、『風雪』、『日産スター劇場』、『三匹の侍』、『遠山の金さん』、『青空に叫ぼう』など、数多くの作品に出演しました。

市川翠扇の墓所は、青山霊園にあります。彼女の遺した功績は、今もなお多くの人々に語り継がれています。

彼女の演技は、その繊細さと力強さで観客を魅了し、新派の歴史に深く刻まれています。市川翠扇は、まさに昭和の演劇界を代表する名女優の一人でした。

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