市来四郎

市来四郎：幕末の薩摩藩士と写真の先駆者

市来四郎は、19世紀半ば、激動の幕末期を生きた薩摩藩士であり、歴史学者としても知られています。単なる藩士の枠を超え、外交、写真、歴史研究と多岐にわたる活動で、日本の近代化に貢献した人物と言えるでしょう。

島津斉彬への忠誠と琉球貿易

市来四郎は、幼少期を城南の新屋敷で過ごし、その後、市来政直の養子となりました。青年期には高島流砲術などの火薬に関する深い知識を身につけ、その才能は島津斉彬に見出され、側近として重用されることになります。

斉彬の下で、市来四郎は製薬掛、砲術方掛などの要職を歴任し、薩摩藩の近代化政策である集成館事業にも大きく貢献しました。特に、安政4年（1857年）、斉彬の密命を受け、琉球へと渡り、フランスとの交渉に当たったことは有名です。この交渉の目的は、フランスから戦艦を購入することであったと伝えられていますが、斉彬の急死により、その計画は頓挫してしまいました。この出来事は、琉球王府内部における政変（牧志恩河事件）にも繋がったとされています。

写真技術の先駆者

市来四郎は、歴史家としての顔以外に、写真技術の先駆者としての側面も持ち合わせていました。安政4年（1857年）9月17日、宇宿彦右衛門らと共に、島津斉彬の肖像をダゲレオタイプという銀板写真術を用いて撮影しました。この写真は、「日本人が最初に撮った写真」の一つとして、現在も日本の写真史において重要な位置を占めています。当時の技術水準を考えると、この撮影は極めて高度な技術と知識を必要としたものであり、市来四郎の技術力の高さを示すものと言えるでしょう。

維新後と歴史研究

斉彬の死後、市来四郎は斉彬の弟である島津久光の側近となり、引き続き集成館事業、特に大砲や火薬の製造に携わりました。文久2年（1862年）以降は、琉球通宝や天保通宝の鋳造にも関わっています。

明治維新後も、市来四郎は島津家に関わる史料の収集に尽力し、歴史研究に貢献しました。廃仏毀釈に関する自身の見解も記録として残しており、歴史学者としての姿勢は一貫していたことが伺えます。

市来四郎の遺産

市来四郎は明治36年（1903年）に75歳で亡くなりました。彼の生涯は、薩摩藩の繁栄と近代化に大きく貢献しただけでなく、日本の写真技術の発展、そして歴史研究にも多大な影響を与えました。彼の功績は、残された史料や写真、そして子孫である市来広一郎氏（熱海V字回復の立役者として知られる地域づくりアドバイザー）といった形で、現在まで受け継がれています。鹿児島市稲荷町には市来四郎屋敷跡が残されており、歴史に触れることができる貴重な史跡となっています。主な著作物としては「市来四郎日記」「忠義公史料」「順聖公御言行録（現『島津斉彬言行録』）」「島津家国事鞅掌録」などがあります。これらの史料は、日本の歴史研究において、今後も重要な役割を果たし続けるでしょう。

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