希土戦争 (1919年-1922年)

希土戦争（1919年～1922年）

希土戦争は、第一次世界大戦後のオスマン帝国崩壊期に、ギリシャ王国とトルコの間で発生した戦争です。この戦争は、ギリシャの「大ギリシャ主義」に基づくアナトリア半島への侵攻と、トルコ民族主義運動との衝突が主な要因です。

背景

第一次世界大戦で同盟国として参戦したオスマン帝国は、1918年10月に連合国に降伏。連合国は、イスタンブールを含むオスマン帝国の主要地域を占領しました。イギリス、フランス、イタリアはそれぞれ、アナトリア半島の要衝を確保しました。

戦争の経過

ギリシャ軍のイズミル上陸

1919年5月15日、ギリシャ軍はイギリスの支援を受けて、アナトリア半島西岸のイズミルに上陸しました。この上陸の背景には、イズミルを含むエーゲ海沿岸に多く居住していたギリシャ人コミュニティの保護がありました。しかし、この侵攻は、アナトリアの分割を阻止しようとするトルコ民族主義運動の火種となりました。

ムスタファ・ケマルの台頭

オスマン帝国軍のムスタファ・ケマル・パシャは、ガリポリの戦いでの活躍により「アナファルタラルの英雄」として知られていました。彼は、1919年5月19日にサムスンに上陸し、「アナトリア・ルメリア権利擁護委員会」を結成し、トルコ民族の抵抗運動を組織化しました。ケマルは、帝国議会議員や軍の司令官たちに呼びかけ、アナトリアの分割に反対し、抵抗組織を立ち上げました。

1920年3月には、連合国がイスタンブールを占領。これに対し、多くの帝国議会議員がアンカラに移動し、大国民議会を開きました。ケマルは、この議会を基盤にアンカラ政府を樹立し、連合国やイスタンブール政府に対抗する姿勢を鮮明にしました。

セーヴル条約

1920年8月10日、連合国とイスタンブール政府はセーヴル条約を締結しました。この条約では、東アナトリアでのクルド人自治区とアルメニア人国家の樹立、東トラキアとエーゲ海諸島のギリシャへの割譲が定められました。さらに、イズミル周辺地域はギリシャの管理下に置かれ、住民投票により帰属が決定されることになりました。この条約は、トルコの分割を意味し、ケマル率いるトルコ民族主義者たちの反発を招きました。

ギリシャ軍のアナトリア侵攻とトルコ軍の抵抗

アンカラ政府は、アリ・フアド・パシャを司令官とする国民軍を編成し、ギリシャ軍に対抗しました。初期の戦闘で損害を被った国民軍は、正規軍に再編され、イスメト・ベイ（後のイニョニュ）が指揮を執りました。

1921年1月には、第一次イニョニュの戦いが発生。ギリシャ軍は進軍しましたが、トルコ軍の抵抗により後退しました。続く第二次イニョニュの戦いでは、国防大臣フェヴズィ・パシャの反撃によって、ギリシャ軍を撃退しました。しかし、同年7月、ギリシャ軍は物資の援助を受け、アンカラ西方50kmまで進軍しました。

サカリヤの戦い

トルコ国民議会は、ケマルを総司令官に任命し、直接指揮を執らせることにしました。トルコ軍は、アンカラ西方サカリヤ川沿いに塹壕線を構築し、ギリシャ軍との消耗戦を繰り広げました。補給線を断たれたギリシャ軍は次第に劣勢となり、9月12日、トルコ軍の攻勢により撤退を余儀なくされました。ギリシャ軍は、200km後方のイズミルまで撤退しました。

大攻勢・ドゥムルプナルの戦い

1922年8月26日、トルコ軍はイズミル周辺で総攻撃を開始し、ギリシャ軍を打ち破りました。イズミルはトルコ軍に占領され、逃げ遅れたギリシャ人やアルメニア人は、トルコ軍の迫害を恐れて船で脱出しました。日本の商船「東慶丸（とうけいまる）」は、多くの難民を救助したという逸話が残っています。

イズミル入城・追撃戦

9月8日には、トルコ軍がイズミルを占領しました。ギリシャ軍兵士は多数が殺害されました。トルコ軍は北上し、ダーダネルス海峡の管理区域に駐屯するイギリス軍と対峙しましたが、実際の戦闘は回避されました。

ギリシャ軍のアナトリア撤収後の展開

敗北したギリシャでは、9月11日にクーデターが発生し、コンスタンティノス1世は再び退位しました。その後、六人組裁判が開かれ、戦争を主導した指導者たちが処刑されました。

戦争の結果

ムダニヤ休戦協定

トルコ軍との戦闘継続が困難になったイギリスとフランスは、アンカラ政府との和平交渉に乗り出しました。トルコは、東トラキアへの進駐を条件にギリシャとの休戦協定を締結しました。

ローザンヌ条約

1923年7月、ローザンヌで旧連合国とトルコ政府、周辺諸国との間でローザンヌ条約が締結されました。この条約により、東トラキアとイズミルがトルコ領となり、ギリシャとトルコ間の国境が確定しました。また、ギリシャとトルコ間で住民交換が行われ、約100万人のギリシャ正教徒がトルコからギリシャへ、50万人のイスラム教徒がギリシャからトルコへ移住しました。

関連作品

『トルコ狂乱 オスマン帝国滅亡とアタテュルクの戦争』（トゥルグット・オザクマン著）
『ディバイナー 戦禍に光を求めて』（ラッセル・クロウ監督・主演）

関連項目

希土戦争 (1897年)
第一次バルカン戦争
トルコ革命
ギリシャ第二共和国
メガリ・イデア（大ギリシャ主義）
メレティオス・メタクサキス

外部リンク

ローザンヌ条約原文
ギリシャ近現代史
希土戦争　"第一次世界大戦" 内
トルコ独立戦争

もう一度検索