帯留

帯留（おびどめ）

帯留は、和装において、女性が帯締めに通して用いる装身具です。「帯止」と記されることもあります。京都の花柳界では、舞妓が使用する特別な大型の帯留を「ぽっちり」と呼びます。

帯留の歴史

帯留の歴史は、江戸時代後期、文化・文政年間（1804年 - 1829年）に始まります。文献での初出は文政5年（1822年）。当初は「胴締」や「上締」とも呼ばれ、帯を固定する役割を持つものでした。当時の帯の固定には、紐を結ぶ方法と、金具で留める方法があり、後者が現在の帯留の原型となりました。

初期の金具式帯留は、帯が緩まないための実用的な「帯の固定金具」としての性格が強く、現在の紐通し式とは異なり、紐の両端を引っ掛けて固定する構造でした。当初は男性が主に用い、女性は老女が使用していましたが、次第に女性へと普及していきます。

幕末から明治初期にかけては、特に芸者衆の間で流行し、男性から贈られた刀装具などを加工して用いたと考えられています。明治時代に入ると「パチン留め」と呼ばれ、明治9年（1876年）の廃刀令以降、不要になった刀装具を転用する形で広く使われるようになりました。刀装具職人が帯留職人となり、帯留は一時的に大流行しました。

明治25年（1892年）頃になると、現在の主流である紐を通す形式が登場し、普及します。これにより、金具式の「パチン留め」は衰退し、帯留は実用的な固定具から装飾品としての性格を強めていきました。

現在の形態と素材

現在主流の帯留は、帯締めを本体に通して使用する形式です。この他、帯締めの上から挟むクリップ式や開閉式もあり、これらは厚みのある帯締めにも使用できる利点があります。いずれも装身具としての用途が主です。

帯留には多様な素材が用いられ、工芸品としての価値を持つものも多数あります。珊瑚、翡翠、象牙、鼈甲、蒔絵、螺鈿、貝、カメオ、貴石（ダイヤモンド、真珠、ルビー、エメラルド、サファイアなど）、貴金属（金、銀、プラチナ）、七宝、陶器、ガラス、トンボ玉、セルロイドなどが代表的です。これらの素材や技法によって、帯留は様々なデザインや表情を見せます。

帯締めとの関係

帯留は通常、平たい帯締めに通して使います。幅二分から三分の細い帯締め用のものが一般的ですが、幅広のものもあります。舞妓の「ぽっちり」用は特に幅広です。幅二分から三分の細い平打ち帯締めは、帯留を目立たせるために広まりました。帯留として作られたものでなくても、帯締めが通る部分があれば代用することも可能で、ブローチなどを転用するための専用金具も市販されています。

帯留とTPO

帯留は場面に応じた配慮が必要です。

季節: 翡翠、水晶は夏、珊瑚は冬に用いるとされることがあります。
茶席: 一般に避けるのが無難ですが、地味なものであれば許容される場合もあり、判断は慎重に行うべきです。
喪服: 通常避けます。ただし、黒い石や数珠に用いるような貴石（翡翠、真珠、水晶）であれば法事の略喪服に可とする説など、諸説あり、判断は難しいところです。
礼装: 花柳界や上流社会では、かつて紋付の色留袖や黒留袖にも宝石を用いた帯留が使われる例が見られました。特に上流社会では、洋装に対抗する和装の装身具として発展しました。留袖にはダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、真珠の五大宝石（またはアレキサンドライト、ヒスイを加えた七大宝石）などが、振袖にはルビー、真珠、オパール、珊瑚、金銀、七宝などがふさわしいとされます。一般的な社会での礼装（黒留袖、色留袖など）における帯留の使用については様々な見解があります。使用しても構わないとする説もあれば、色留袖に限定する説、パーティーや街着に留めるべきとする説などがあり、定説がありません。礼装で使用する場合は、宝石や鼈甲、金銀蒔絵など格の高いものが推奨されます。

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