帰正

帰正（きせい）

帰正とは、キリスト教の主要な教派である正教会やカトリック教会において、他のキリスト教の教派から自己の教派へ所属を移す際に用いられる特別な用語です。この言葉は「正しき教えに立ち返る」という意味合いを含んでいます。一方、プロテスタント教会が他のキリスト教教派から受け入れる場合は、「転会（てんかい）」という別の言葉が一般的に使われます。

キリスト教においては、自身の教派から全く異なる宗教へと信仰を変える行為を「改宗」と呼びます。しかし、キリスト教の枠組みの中で、例えばプロテスタントからカトリックへ、あるいはカトリックから正教会へといったように、異なる教派間を移動する場合は、「改宗」とは言わず、「帰正」や「転会」といった言葉で区別しています。これは、キリスト教が共通の信仰基盤を持つという考えに基づいているためです。

また、キリスト教の重要な秘跡である洗礼は、一般的に生涯に一度だけ授けられるものとされています。新約聖書の『エフェソの信徒への手紙』には、「主は一人、信仰は一つ、洗礼は一つ」という教えがあり、これが洗礼の唯一性を裏付けています。このため、他教派へ移る場合であっても、原則として再び洗礼を受けることはありません。

正教会における帰正

正教会に他のキリスト教教派から入る場合、その手続きは元の教派によって異なります。

カトリック教会からの帰正: カトリック教会から正教会へ移る際には、「帰正式」と呼ばれる特別な儀式が行われます。
プロテスタント教会からの帰正: プロテスタント教会からの場合は、まず、プロテスタント教会で受けた洗礼が、正教会の基準で有効と認められるかどうかを、管轄する主教が判断します。
洗礼が有効と判断された場合、カトリックからの場合と同様に「帰正式」が行われます。ただし、プロテスタントでは堅信礼にあたる儀式で聖油を用いない場合が多いことから、正教会で堅信にあたる「傅膏機密（ふこうきみつ）」が帰正式と同時に行われるのが通例です。
もしプロテスタントでの洗礼が正教会の基準で無効と判断された場合、改めて洗礼機密と傅膏機密の両方が授けられます。この場合は、厳密には「帰正」とは呼ばれません。

カトリック教会における変化

カトリック教会では、かつては他教派からの受け入れを「帰正」と呼んでいました。しかし、1960年代に開催された第二バチカン公会議以降、エキュメニズム（教会一致運動）の精神が高まり、他のキリスト教教派との関係性が重視されるようになりました。この影響を受け、「帰正」という言葉は次第に使われなくなり、現在では「転向（てんこう）」という言葉がより一般的に用いられています。

他教派からカトリック教会への「転向」にあたっては、転向希望者が以前所属していた教会の洗礼記録を取り寄せ、洗礼を受けた事実を確認することが求められます。その上で「転向式」が執り行われます。転向式では、カトリック教会への所属を誓う宣誓を行い、初めて聖体拝領（初聖体）を受けるのが主な内容です。

補足として、1967年に発行された『カトリック大辞典』第一巻によれば、当時のカトリック教会における他教派からの帰正は、いくつかの手続きを伴うとされていました。具体的には、カトリックの信仰を公に表明する「信仰宣言」、これまでの教派における「異端や離教からの訣別」の表明、「破門の解消」（もし該当する場合）などが必要とされました。状況によっては、「条件付洗礼」や「告解」が行われることもあり、教会への正式な加入には司教の許可が不可欠とされていました。現代の「転向」の手続きは、この頃の規定から変化しています。

このように、キリスト教の教派間における移動を示す用語や、それに伴う手続きは、教派によって独自の慣習や歴史的経緯に基づいています。

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