常寧殿

常寧殿：平安宮廷の儀式空間の変遷

常寧殿は、平安時代の内裏後宮に位置する七殿五舎の一つです。当初は皇后の御所として建てられたことから「后町」とも呼ばれ、重要な儀式である五節舞の帳台試が行われたことから「五節殿」という別名も持ちます。内裏の中央に位置し、貞観殿の南、承香殿の北にありました。

建物の役割は時代とともに変化しました。当初は後宮の中心的存在でしたが、次第に弘徽殿や飛香舎といった清涼殿周辺の殿舎が后妃の居住空間として主要な役割を担うようになり、常寧殿は儀式的役割へと移行していきました。

歴史記録によると、常寧殿を賜った妃としては、文徳天皇の女御・藤原明子（藤原良房の娘）、清和天皇の女御・藤原高子（藤原長良の娘）、光孝天皇の女御・班子女王（仲野親王の娘、宇多天皇の生母）などが知られています。天皇の一時御所となった時期もあったようです。

東海林亜矢子の研究によると、奈良時代には皇后は天皇とは別の宮殿（皇后宮）に住んでいましたが、光仁天皇の時代に皇后宮が廃止され、天皇と皇后が内裏で同居するようになりました。このため、皇后専用の空間として常寧殿が設けられたと考えられます。しかし、班子女王以降は、后妃の居住空間は他の殿舎に移り、常寧殿の使用頻度は激減しました。結果として、仏教儀式など重要な儀式を行う場所として転用され、最終的には五節舞関連の数日間の儀式にのみ使用されるようになりました。

常寧殿の規模については、9間4面説と7間4面説があります。身屋は東西7間、南北2間で、中央には馬道があり、西側は塗籠となっていました。南の廂は馬道の東側が4間、西側が3間で、東と西には妻戸がありました。南面は格子戸、北の廂も同様の構造です。東の廂は南北の廂に挟まれた2間で、東面は格子戸でした。西の廂は身舎、南北の廂の西側にあり、4間で、西面は北の廂および身舎との間に3間の戸がありました。北面も戸で、西の廂の西側には東西2間、南北4間の孫廂があり、その北面は蔀、南面は格子戸でした。西面は北から蔀、遣戸、蔀、遣戸と続き、周囲には簀子がありませんでした。

馬道の南端には3段の石階があり、ここから廊下（后町廊）で承香殿に通じていました。その後、この廊は土間となりました。また、この廊の南端の東側、立蔀の外には后町井がありました。馬道の北側は戸で、その北は渡殿を経て貞観殿に繋がっていました。西の廂の北端にも渡殿があり、貞観殿の西の廂に通じていました。また、孫廂の南端の西面にも渡殿があり、弘徽殿の北の廂の東端に通じていました。南の廂の東端と、北の廂の東端の北にはそれぞれ階があり、北の廂の東端は渡殿および反橋で宣耀殿に繋がっていました。南庭には立蔀が巡らされていました。

常寧殿は、皇后の住まいから儀式空間へと変化を遂げた、平安宮廷の歴史を物語る重要な建造物です。その構造や配置は、当時の宮廷文化を理解する上で貴重な手がかりとなります。

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