仲野親王

仲野親王：才能と恵まれた生涯、そして謎めいた陵墓

仲野親王は、桓武天皇の第12皇子として延暦24年（805年）に誕生しました。その生涯は、数々の栄誉に彩られた華麗なものでした。幼少期から聡明で穏やかな性格であったと伝えられ、特に寿詞と宣命の宣読においては、類まれな才能を発揮しました。その正確で美しい音律は、当時の人々から模範とされ、のちには清和天皇の命により、藤原基経や大江音人といった当時の重臣たちが親王からその技を学んだほどでした。

官歴においても、仲野親王は目覚ましい成功を収めました。四品から始まり、中務卿、大宰帥といった要職を歴任し、最終的には二品にまで昇進しました。上総太守や上野太守など、地方官職も経験しており、朝廷内での信頼の厚さがうかがえます。さらに、晩年には宮中への輦車での出入りの許可や、禁野外での狩猟の特権が与えられるなど、天皇から特別な恩寵を受けていました。

私生活においても、仲野親王は恵まれた環境にありました。複数の妻との間に多くの男子と女子をもうけ、その子孫は後の皇統にもつながっています。特に、娘の班子女王は光孝天皇の女御となり、のちに皇太后にまで上り詰めたことは、親王の社会的地位の高さを示しています。

貞観9年（867年）、76歳で亡くなった仲野親王ですが、その死後もその影響は長く続きました。20年後、娘の班子女王の子である定省親王が宇多天皇として即位すると、仲野親王は天皇の外祖父として、一品太政大臣を追贈されました。これは、その生涯における最大の栄誉と言えるでしょう。

しかし、仲野親王の生涯には、謎めいた部分も残されています。その一つが陵墓です。山城国葛野郡の高畠墓に葬られたとされていますが、現在、京都市右京区太秦垂箕山町にあるとされる墓は、6世紀後半に築造された前方後円墳である「垂箕山古墳」であり、時代が一致しません。この墓が仲野親王のものかどうかは、現在でも学術的な議論が続いています。もしかしたら、この地の旧村名「中野村」に由来する、後世の解釈なのかもしれません。

仲野親王の生涯は、優れた才能、恵まれた環境、そして謎めいた陵墓という、対照的な要素が複雑に絡み合った、興味深いものです。歴史資料を紐解きながら、その生涯を辿ることで、平安時代の政治や文化の一端に触れることができるでしょう。彼の華麗な経歴と謎に包まれた晩年、そして子孫への影響は、今もなお人々の関心を集めています。今後の研究によって、より多くの事実が明らかになることが期待されます。

主な参考文献

森田悌 『日本後紀』（上中下巻）講談社学術文庫、2006年
森田悌 『続日本後紀』（上下巻）講談社学術文庫、2010年
武田祐吉、佐藤謙三訳 『読み下し 日本三代実録 上巻』戎光祥出版、2009年
『本朝皇胤紹運録』

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