平井泰太郎

概要

平井泰太郎（ひらいやすたろう、1896年 10月15日 - 1970年 7月2日）は、日本の経営学研究および教育の発展に多大な貢献をした経営学者です。神戸大学名誉教授を務め、特に戦後、新制神戸大学に日本で初めての経営学部を設立した功績は特筆されます。また、日本の主要な経営学術団体である日本経営学会および日本経営診断学会の設立や運営にも深く関わり、多くの優れた経営学研究者を育成しました。

経歴

平井泰太郎氏は1896年、兵庫県神戸市に生まれました。地元の神戸高等商業学校（現在の神戸大学）で学び、1918年に卒業。その後、東京高等商業学校（現在の1橋大学）の商工経営科に進み、1920年に卒業して商学士の学位を取得しました。東京高等商業学校では、経営学のパイオニアである上田貞次郎氏の門下に入り、その薫陶を受けました。当時の同期には、後に第3代神戸大学学長となる福田敬太郎氏がいます。

卒業後は、母校である神戸高等商業学校の講師に就任。日本の経営学黎明期において、海外の先進的な理論を学ぶことの重要性を痛感し、1921年から1925年にかけて欧米に留学しました。ドイツではベルリンでハインリヒ・ニックリッシュ、ライプツィヒでバルドウィン・ペンドルフ、フランクフルトでフリッツ・シュミットといった当時の著名な経営学者に師事し、専門知識を深めました。留学期間中の1923年には神戸高等商業学校の教授に昇任しています。

欧州留学中は、神戸高商の同僚であった八木助市氏や坂本彌三郎氏らに加え、東京高商の本間喜一氏、渡邉大輔氏、大塚金之助氏、金子鷹之助氏、井藤半彌氏、吉田良三氏、名古屋高商の宮田喜代蔵氏、赤松要氏など、同時期に各国で学んでいた多くの日本の研究者たちと交流を深めました。異国の地で共に研究会を開いたり、将棋を楽しんだりするなど、学術的なネットワークを築くとともに、互いに親睦を深めました。

学術的貢献と教育活動

帰国後、平井氏は日本の経営学確立に向けて精力的に活動を開始します。1926年には、師である上田貞次郎氏らとともに、日本の経営学研究における中心的な学会となる日本経営学会を創設しました。戦後には同会の第2代理事長を務め、学会の発展に貢献しました。

戦後の学制改革による新制大学発足に伴い、平井氏は神戸大学において日本初の経営学部を創設するため尽力します。大学の学部構成を巡っては、商学部の設立を主張する福田敬太郎氏との間で議論も重ねられましたが、最終的には平井氏の構想が実を結び、1949年に日本の高等教育機関としては初めてとなる経営学部が神戸大学に開設されました。平井氏はその教授に就任し、初代学部長も務めました。

1951年には、日本で初めてとなる経営学博士の学位を取得しました。これは、日本の経営学が独立した学問分野として確立されていく上で画期的な出来事でした。平井氏は神戸大学経営学部を拠点に、多くの優秀な経営学研究者を育成しました。門下生には、市原季一氏、山下勝治氏、阪本安一氏、丹波康太郎氏、戸田義郎氏、久保田音二郎氏、米花稔氏、栗田真造氏、大塚俊郎氏、清水晶氏、三上富三郎氏、伊藤森右衛門氏、今井信二氏、木内佳市氏、山桝忠恕氏、井上忠勝氏、森昭夫氏、鈴木和蔵氏、眞野脩氏などがいます。

1960年に神戸大学を定年退官し名誉教授となった後も、平井氏は研究・教育活動を続けました。1961年には国際経営会議（CIOS）のフェローに選出され、国際的な舞台でも活躍しました。1967年には立正大学経営学部教授に就任。

1968年には、経営診断の専門性を高めるため、日本経営診断学会を設立し、初代理事長および会長を務めました。また、日本の経営学における多くの学術用語を創作するなど、学問体系の整備にも貢献しました。

受賞・栄典と著作

長年の功績が称えられ、国内外で多くの栄誉を受けました。1957年にはパリ市参事会議長より「アミ・ド・パリ」称号を授与されました。1965年には藍綬褒章を受章。1968年には兵庫県文化賞とドイツ経営学会名誉会員の称号を得ています。そして1969年、勲二等瑞宝章を受章しました。

主要な著作としては、『経営学入門』(1932)、『経営学通論』(1935)、『経営組織の発展と計算思考』(1950)、『経済安定と企業経営』（編著、1950）、『経営学辞典』（編、1952）、『水島銕也』(1959)、『この壁を破れ経営百話』(1961)など、経営学の理論から実務、人物研究まで多岐にわたり、日本の経営学研究の指針となりました。多くの編著や翻訳も手掛け、海外の先進的な研究成果を日本に紹介する役割も果たしました。

平井泰太郎氏は、日本の経営学が独自の体系を築き、発展していく過程において、教育者、研究者、そして組織運営者として極めて重要な役割を担いました。その功績は、今日の日本の経営学教育・研究の隆盛に大きな影響を与えています。

もう一度検索