平岡養一

平岡 養一（ひらおか よういち、1907年8月16日 - 1981年7月13日）は、日本の木琴（シロフォン）奏者です。兵庫県尼崎市に生まれ、国際的な舞台で活躍した音楽家として知られています。

東京の家系に生まれた平岡は、実業家だった父・寅之助の赴任に伴い、兵庫県尼崎市で少年時代を過ごしました。伯父には日本初の野球チーム創設者である平岡凞がおり、幼い頃から野球の特訓を受けましたが、体格的な不向きからその道を断念します。小学校在学中に東京へ戻り、慶應義塾幼稚舎から普通部へと進みました。この頃、ピアノを始めますが、手が小さいため演奏に難しさを感じます。それでも音楽への情熱は失わず、ハーモニカなどを楽しむ中で、銀座の映画館「コンパル館」で聴いた無声映画伴奏の木琴の音色に心を奪われました。以来、足繁く映画館に通い詰め、中学3年生の時には5円の木琴を独学で練習し始めます。

慶應義塾大学予科に進む頃には、学生主催のパーティーなどで演奏を披露する機会が増え、より高価な輸入品の木琴を購入。演奏家としての活動を本格化させました。大学は経済学部に進学しますが、この時期には既に木琴のスペシャリストとして多くのレパートリーを習得していました。1927年5月、帝国ホテルで初のリサイタルを開催。1929年には当時音楽家の檜舞台とされた日本青年館でのリサイタルも成功させます。

1930年6月、父の勧めでアメリカ合衆国への留学を決意します。所持金はレコード録音で得たわずか1000円（当時の片道旅費相当）のみでした。渡米後、9月に受けたNBCラジオのオーディションでは、80人の中から選ばれるという快挙を成し遂げ、合格。翌年には15分間のレギュラー番組出演が決定します。この番組は4000回を超える長期放送となり、「全米の少年少女たちが、ヨーイチ・ヒラオカの奏でる木琴の音色で一日を始める」とまで評されるほどの人気を博しました。番組の一部は、第二次世界大戦中、NHKを通じて日本国内でも放送されています。

アメリカでの成功は続き、1936年12月にはニューヨークのタウンホールで独演会を開催。演奏は絶賛され、特にニューヨーク・タイムズ紙の批評は大きな反響を呼びました。この成功は、かねてより想いを寄せていた日系アメリカ人女性との結婚の大きな後押しとなり、翌1937年3月に結ばれています。

1942年6月、第二次世界大戦の影響により、交換船で日本へ帰国。日本のビクターと契約し、レコードを発表したことで、日本国内でも平岡の名が広く知られるようになりました。帰国後は戦時中から国内各地で精力的に演奏活動を行い、1963年までの約20年間で2000回を超える演奏会を開催しました。特に、終戦直後の1945年9月、日比谷公会堂で藤原義江ら著名な音楽家たちと共に行った「明朗音楽会」は、戦後初の本格的なコンサートとして注目を集めました。同年12月31日には、NHK紅白歌合戦の前身番組であるラジオ『紅白音楽試合』にも木琴奏者として出演しています。

そして約20年後の1962年11月、彼はニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団のソリストとして、クラシック音楽の殿堂であるカーネギー・ホールに日本人として初めて立ち、成功を収めました。翌年にはアメリカの永住権を取得し、家族とともにカリフォルニア州へ移住。さらにその5年後には市民権も取得しています。その後も、日米両国を拠点に精力的な演奏活動を展開しました。

1978年には胃癌により胃を全摘出する大手術を受けますが、同年11月にはこれまでの功績に対し勲四等瑞宝章を受章しています。1981年、73歳でその生涯を閉じた平岡の人生を支えたモットーは、「幸福と成功は努力して得ねばならぬ」という言葉でした。

平岡が愛用した木琴は、1935年製の米国ディーガン社製を自ら改造したものでした。彼の死後、ロサンゼルスの遺族によって保管されていましたが、2003年にはオーケストラ・ニッポニカ、2005年には東京フィルハーモニー交響楽団によって、紙恭輔作曲の「木琴と管絃楽のための協奏曲」の演奏に使用されました。特に2005年の演奏を機に、遺族からマリンバ奏者の通崎睦美氏に譲渡され、現在も大切にされています。

また、平岡は現代日本の作曲家にも影響を与え、黛敏郎の「木琴小協奏曲」（1965年）や小山清茂の「木琴と管弦楽のための協奏組曲「鄙唄」」（1966年）といった作品を委嘱、初演しています。その生涯は、関連書籍が出版されたり、NHKのドラマ『放送90年ドラマ 紅白が生まれた日』（2015年）で描かれるなど、没後も語り継がれています。

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