幻想曲 作品28 (メンデルスゾーン)

メンデルスゾーン：幻想曲 嬰ヘ短調 作品28《スコットランド風ソナタ》

フェリックス・メンデルスゾーン（Felix Mendelssohn Bartholdy, 1809-1847）が作曲したピアノのための幻想曲 嬰ヘ短調 作品28, MWV U 92は、『スコットランド風ソナタ』（仏: Sonata écossaise）という愛称で広く親しまれています。

概要と作曲背景

多くの同時代のドイツ人音楽家たちと同様に、メンデルスゾーンもスコットランドの地に強い憧れを抱いていました。1829年の夏に彼が実際にスコットランドを旅した際に得られた霊感は、後の代表作である交響曲第3番 イ短調《スコットランド》や演奏会用序曲《フィンガルの洞窟》といった傑作に結実しています。

一方で、この幻想曲作品28は、メンデルスゾーンが家族に宛てた手紙の内容から、1828年あるいは1829年の初めには既に作曲が始められていたと考えられています。したがって、この曲の構想自体はメンデルスゾーンのスコットランド訪問以前に遡ることになります。しかしながら、彼は以前からスコットランドに対する憧れを募らせており、当時流行していたウォルター・スコットの文学作品を読んだり、スコットランドの舞踊に触れたりしていました。本作にも、こうした背景からスコットランドの舞曲を思わせる要素が取り入れられています。

完成は作曲開始から数年を経て、1833年1月29日でした。この時点では、フランス語で「Sonata écossaise（スコットランド風ソナタ）」という表題が付けられていました。楽譜が出版されたのは翌1834年、ボンからでしたが、出版に際してこの愛称としての表題は公式には撤回されることになります。

本作は、次第に速度を上げていく3つの楽章が切れ目なく演奏される構成を取っています。全体の構成や短調（嬰ヘ短調）の採用という点では、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの有名なピアノソナタ第14番 嬰ハ短調《月光》（Sonata quasi una Fantasia）を連想させるものがあります。ベートーヴェンもまた自作を「幻想曲風ソナタ」と題し、ピアノソナタと幻想曲の境界を探求しましたが、メンデルスゾーンのこの作品とベートーヴェンの《月光》ソナタの間には、構成上のヒントはあれど、具体的な楽想や素材に直接的な類似は見られません。

全曲の演奏時間は約13分から14分です。

楽曲構成

この幻想曲は、以下の3つの楽章が休みなく続けて演奏されます。

第1楽章 コン・モート・アジタート - アンダンテ - コン・モート・アジタート

嬰ヘ短調、4分の2拍子で、自由なソナタ形式によって書かれています。「急速に、激動して」という意味のコン・モート・アジタートの指示されたアルペッジョの奔流で曲は幕を開けます。この激しい動きの中から、やがて「歩くような速さで」という意味のアンダンテで示された、対照的に穏やかな主要主題が現れます。

アルペッジョの速いパッセージを挟んで、第2主題がイ長調で提示されます。中間部にはアルペッジョやオクターヴの連続を特徴とする部分が置かれ、その後、力強い主要主題の再現へと移行します。楽章の最後では、ダンパーペダルを解放して和声が曖昧に響くように書かれた印象的なパッセージが登場します。短いフェルマータで余韻を作り、そのまま切れ目なく次の楽章へ繋がります。

第2楽章 アレグロ・コン・モート

イ長調、2分の2拍子で、スケルツォのような軽快な形式を持っています。この楽章に明確なスコットランド音楽の要素が含まれているかについては、必ずしも明らかではありません。主要主題は、落ち着いた、歌謡的な性格を持っています。

トリオ部分は、スケルツォ主題とは対照的に、オクターヴで奏される簡素な主題が特徴です。スケルツォ主題の再現では、主題がより豊かな響きを持つように拡張されて歌われます。この楽章も途切れることなく、終楽章へと移行します。

第3楽章 プレスト

嬰ヘ短調、8分の6拍子、ソナタ形式です。「急速に」という指示の通り、この楽章は後に完成される交響曲第3番《スコットランド》の終楽章を思わせるような、激しさと熱気を帯びた音楽で開始されます。非常に急速な第1主題が提示され、活気に満ちた雰囲気を作り出します。

「歌うように」という意味のカンタービレが指定された第2主題も登場しますが、これも16分音符の速い音型を伴っており、第1主題から引き継がれた勢いや熱量は衰えません。

展開部では、まず高速な音の動きと、主題に由来する上向きの音型が組み合わされます。やがてこの上昇音型が音楽全体を支配するようになります。音量を増しながら、堂々とした響きで第1主題が再現され、続いて第2主題も回帰します。コーダでは、再び上昇音型が現れ、「燃えるように」という意味のコン・フォーコの指示の下、音量を最大限に高めて勢いよく全曲の幕を閉じます。

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