庁南町

千葉県長生郡庁南町：歴史と変遷

庁南町（ちょうなんまち）は、かつて千葉県長生郡に存在した町です。現在の長南町の中部に位置し、その歴史は古く、中世には上総武田氏の拠点、近世には宿場町として栄えました。本稿では、庁南町の歴史と変遷、そしてその前史である長南宿について詳しく解説します。

庁南町の成立と変遷

1889年、町村制施行により上埴生郡武丘村として発足しましたが、翌年には町制を施行し庁南町に改称しました。しかし、1955年の昭和の大合併により、豊栄村、西村、東村と合併し、新設された長南町の一部となり、庁南町は廃止されました。

現在の長南町は同音異義であり、旧庁南町とは異なる自治体です。旧庁南町は、現在の長南町長南、坂本、蔵持の3地区に相当します。

前史：長南宿

中世には上総武田氏が庁南城を築き、その居城としました。近世には、房総中往還の継立場（宿場町の一種）として長南宿（矢貫村）が栄えました。長南宿は在[[郷町]]としての性格も持ち、周辺地域の人々にとって重要な場所でした。

地理

現在の長南町長南、坂本、蔵持の3地区が、旧庁南町の範囲です。

歴史

前近代

長南地区にある長福寿寺は、延暦17年（799年）に最澄によって創建されたと伝えられる古刹です。10世紀には、坂本と蔵持がそれぞれ埴生郡坂本郷、長柄郡車持郷として記録されています。

平安時代末期には、長柄郡が解体し、その南部に「長南郡」という郡名が現れるようになりました。「長南」は「庁南」とも記され、「長南荘」や「長南郷」といった地名でも呼ばれました。桓武平氏上総氏一族の長南氏（庁南氏）は、当地の開発領主とされています。

15世紀半ばには、上総武田氏の武田信長が庁南城を築き、居城としました。信長の孫である武田道信は、庁南武田氏（長南武田氏）を称しました。しかし、天正18年（1590年）には豊臣秀吉の軍勢によって庁南城は陥落しました。

江戸時代には、現在の長南地区は「矢貫村」と呼ばれていました。矢貫村は房総中往還の継立場として栄え、天明の頃（18世紀後半）には、埴生郡内で唯一の「市場」として機能していました。周辺の村々から人々が集まり、物の売り買いが行われていました。矢貫村の豪農・今関家は、土地を集積し、貸付業や酒造業を手掛け、その威信を示す「公家門」が現存しています。

近代

明治初年には、矢貫村は長南宿と公称しました。房総知県事の柴山文平が長南宿の浄徳寺を県庁として使用した時期もありました。遠江国浜松藩から上総国に移された井上正直（鶴舞藩）は、長南宿の今関家を「仮本営」とし、長福寿寺を仮の藩庁としました。井上家は、明治3年（1870年）4月に鶴舞に陣屋が完成するまで当地を藩の拠点としました。

町村制施行以前には、この地域の地方制度は以下のように変遷しました。

坂本村・中善寺村で連合戸長役場を設置
蔵持村・千田村・千手堂村で連合戸長役場を設置
長南宿・蔵持村・坂本村で連合戸長役場を設置

1884年（明治17年）には、長南宿、蔵持村、坂本村が1つの連合となりました。そして、1889年（明治22年）の町村制施行により、この3宿村が合併して武丘村が誕生しました。村名の由来は、日本武尊が東征の際に太鼓森（長南宿）に陣営を設けたという伝承から、「武」と「丘」の字が採用されたとされています。

翌1890年（明治23年）に町制を施行し、上総武田氏の居城である庁南城に由来する庁南町に改称しました。

町域の変遷

1889年（明治22年）4月1日：町村制施行により、長南宿、蔵持村、坂本村が合併し、上埴生郡武丘村が発足。
1890年（明治23年）3月12日：武丘村が町制施行し、庁南町に改称。
1897年（明治30年）4月1日：長柄郡、上埴生郡が統合され、長生郡となる。
1955年（昭和30年）2月11日：豊栄村、西村、東村と合併し、長南町を新設。同日、庁南町廃止。

名所・旧跡

長福寿寺（長南 字三途台）
大林寺（長南 字武田）
白鳥山浄徳寺（長南 字浄徳寺谷）
庁南城跡（長南 字中城）
法華寺（坂本 字法華谷）：日蓮宗六老僧の一人、日向の墓（日向堂）がある。
草取仁王堂（蔵持 字仁王谷）
朝日の井戸（蔵持 字北谷）：日蓮ゆかりの井戸。
土橋平蔵の墓（蔵持 字平蔵岨）：中世の豪族、土橋平蔵の墓とされる。

交通

道路

房総中往還（大多喜往還）が通り、長南は継立場として栄えました。茂原町と道路で接続し、上総一宮方面への道も分岐していました。房総中往還には難所もありましたが、明治時代に改修され、新道が開通しました。また、鶴舞藩は長南と鶴舞との間の山道に隧道を開削し、道路を開通させました。

鉄道

明治後期には、茂原町と庁南町を結ぶ人車軌道「庁南茂原間人車軌道」が敷設されました。これは、叺筵や米の輸送が主な目的でしたが、旅客輸送も行っていました。しかし、1926年（大正15年）に廃止されました。

大正中期には、人車軌道に代わる蒸気鉄道の敷設計画も持ち上がりました。「南総鉄道」が茂原-笠森寺間で開業し、町域には長南元宿駅、長南駅、上総蔵持駅が置かれましたが、経営不振により1939年（昭和14年）に廃止されました。

バス

1917年（大正6年）に創立された小湊鉄道がバス路線を運営し、長南もその一部に組み込まれました。南総鉄道も自動車部門を持ちましたが、後に小湊鉄道に統合されました。現在では、小湊バス長南営業所が置かれています。

人物

著名な出身者

渡辺辰五郎：和洋裁縫伝習所（現・東京家政大学）、共立女子職業学校（現・共立女子大学）の創立者。
田中豊：実業家、政治家（衆議院議員）。

まとめ

庁南町は、中世には上総武田氏の拠点、近世には宿場町として栄えた歴史のある町でした。町村制施行により一時武丘村となりましたが、すぐに庁南町に改称。しかし、昭和の大合併により長南町に編入され、その歴史に幕を閉じました。現在でも、その名残を留める史跡や文化財が点在し、かつての繁栄を物語っています。

脚注

注釈

出典

参考文献

小沢治郎左衛門『上総国町村誌 第六編』1889年。NDLJP:763702。
『明治22年千葉県町村分合資料 十二 上埴生郡町村分合取調』1889年。http://e-library.gprime.jp/lib_pref_chiba/da/detail?tilcod=0000000014-CHB600202。
奥山秀範「房総半島にあった鉄道・南総鉄道」『NewWave』2010年。http://www.s.fpu.ac.jp/okuyama/ess/nansou.pdf。
中島義一「明治前期の町 上総の場合」『歴史地理学紀要』第11号、歴史地理学会、1969年。http://hist-geo.jp/img/archive/011_219.pdf。

関連項目

千葉県の廃止市町村一覧

外部リンク

* 千葉県長生郡庁南町 (12B0130010) - 歴史的行政区域データセットβ版

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