広大院

広大院（こうだいいん）とは

広大院（1773年8月6日 - 1844年12月19日）は、江戸幕府11代将軍・徳川家斉の正室（御台所）であり、薩摩藩主・島津重豪の娘として生まれました。その生涯は、将軍家との婚姻を通じて、薩摩藩政に大きな影響を与えたことで知られています。

生涯

婚約から御台所へ

広大院は、安永2年（1773年）に薩摩藩主・島津重豪の娘として誕生しました。幼名は篤姫といいましたが、後に茂姫と改名しました。3歳の時に、一橋治済の息子・豊千代（後の徳川家斉）と婚約し、江戸に呼び寄せられました。当時、将軍家の正室は五摂家か宮家の姫を迎えるのが慣例であり、外様大名の娘である茂姫との婚約は異例でした。しかし、重豪が浄岸院（徳川綱吉・吉宗の養女）の遺言であると主張したため、婚儀は予定通り執り行われることになりました。

茂姫は、豊千代が次期将軍と定められると、近衛家の養女となり、名を寧姫と改めました。その後、再び名を「近衛寔子（このえ ただこ）」と改め、寛政元年（1789年）に家斉と結婚し、御台所となりました。

権勢と薩摩藩政への影響

広大院の結婚により、父・島津重豪は「将軍の舅」という異例の立場となり、権勢を誇るようになりました。一方、実母・市田氏は、その権力を背景に弟を薩摩藩の要職に取り立て、藩政を私物化しました。これが後の薩摩藩の混乱の一因となったとされています。

寛政8年（1796年）、広大院は家斉の五男・敦之助を出産しました。御台所が男子を出産するのは非常に稀なことでしたが、敦之助は夭逝しました。しかし、広大院は御台所として、家斉の多くの子どもを養育し、正室としての権威を確立しました。

また、広大院は薩摩藩政にも大きな影響力を持っていました。異母弟で薩摩藩主の島津斉宣が、財政難を理由に帰国を願い出ても、広大院の意向で却下されたとされています。これは、母の死後、斉宣が市田一族を藩政から排除したことへの報復だったと言われています。

さらに、広大院は、藩主・斉興に、夫・家斉の孫である初之丞を養子に迎えるよう持ちかけましたが、これは断られています。

晩年

天保8年（1837年）、家斉が隠居すると、広大院も西の丸に移り、「大御台様」と称されました。天保12年（1841年）に家斉が死去すると、広大院は落飾して「広大院」と名乗り、従一位を授けられ「一位様」と呼ばれるようになりました。生前に従一位を授けられた御台所は、過去に天英院しかおらず、広大院の権勢は最後まで衰えませんでした。夫の死後、広大院は西の丸大奥から本丸大奥に移り住み、家斉の娘たちを庇護しました。

天保15年（1844年）には、本丸で火災が発生し、多くの犠牲者が出ました。広大院自身も避難を余儀なくされました。その後、同年11月に大奥で死去しました。墓所は増上寺にあります。

墓所

広大院の墓は、増上寺の徳川家墓所にありましたが、戦後の売却時に発掘されました。その際、彼女の遺骨から身長が143.8センチメートルと推定され、他の将軍正室や側室の遺骨と比較しても小柄であったことがわかりました。生前は美女として知られていたにもかかわらず、遺骨は小さかったことは興味深い事実です。

また、広大院の墓には壮麗な八角塔が建てられていましたが、発掘の混乱で行方不明となり、後に清瀬長命寺に移されました。改葬後、他の将軍正室が夫と並んで合葬されたのに対し、広大院は側室と共に合葬墓に入れられています。

血筋

広大院は、徳川家康の次女・督姫の血を引いています。これは、徳川家と島津家の婚姻関係が、広大院を通して繋がっていたことを示しています。

関連作品

広大院を題材にした映画やテレビドラマが数多く制作されています。

映画：「徳川の女帝 大奥」（1988年）
テレビドラマ：「大奥」（1968年、2016年）、「徳川の女たち」（1980年）、「大[[江戸捜査網]]2015～隠密同心、悪を斬る！～」（2015年）、「松本清張スペシャル かげろう絵図」（2016年）、「大奥 Season2「医療編」」（2023年）

これらの作品を通して、広大院の生涯やその人物像が描かれています。

広大院は、将軍の正室として、そして薩摩藩の有力者として、江戸時代に大きな足跡を残しました。その生涯は、権力と運命の複雑さを物語っており、多くの人々に語り継がれています。

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